二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

空と太陽を君に

INDEX|15ページ/31ページ|

次のページ前のページ
 

「レイ…あんた、何言ってるの?」
「もう帰りましょう、レイ!」
ルナマリアとユイが同時に声を荒げる。しかし、レイは困ったように眉を寄せたまま、シンへと数歩近づいた。
「シンというのは、お前のことなのか?」
誰何の言葉を投げられるとは思わなかった。シンは今度こそ指の先から冷たくなっていくのを感じて体の震えが止まらなくなった。アスランが横から支えてくれていなければ、確実に倒れていただろう。ところが、レイはそんな様子は顧みず淡々と問うた。
「オレのことを、オレの過去をお前は知っているのか?」
アスランが何かに感づいたように目を見開いた。
「レイ…きみは…」
そしてその言葉の先を察したように、レイも頷いてみせる。
「貴方たちは俺を知っているようだが…俺には一年より前の記憶がない」

記憶が、ない。
思い出がない。
それはレイの世界に、シンが存在しないということ。
「………っ」
今度こそ、シンは目の前が暗くなるのを感じた。

***

小さな民家のリビングからは、ほろ苦いコーヒーの香ばしい香りが漂ってくる。家具らしきものは僅かしかない。ソファと机、そしてテレビ。床は全面にフローリングを敷き詰めていたが、年季が入っているのかあっちこっち接がれかかっているのを何度も修理した後がある。しかし、温かみのある場所だった。 その家にはユイの他に彼女の祖母が暮らしていた。曲がってしまった腰も手の甲の皺も、刻まれて随分と久しいものだと見て取れる。
キッチンから続いているその部屋にユイはコーヒーを注いだカップを、人数分乗せたトレイを両手に持ってそろそろと入ってきた。
無表情のまま、ソファに座っているアスランとルナマリア、そしてシンへと無言でカップを置いた。更にレイと祖母へ手渡すと自分はこの空気に耐え切れずに、机の傍にある出窓に近づいて、その珊へとカップを持ったまま凭れかかった。
シンはただ、ぼんやりとカップから出る真っ白い湯気を見つめていた。何か言いたいのに声が出ない。そしてまた、何が言いたいのかさえ今の自分には判らない。
それに変わるようにアスランが口を開いた。
「私は、ザフト軍国防委員会所属のアスラン・ザラと言います。そしてこっちは国防委員会直属フェイス所属のシン・アスカ。こちらの彼女がアスカ隊所属のルナマリア・ホークです。そしてレイ」
姿勢を正したまま座るアスランを見るには、レイは少し目線を上げなければならない。彼は微かに上向いてじっとアスランの声に聞き入っているようだった。
「きみは、ミネルバという戦艦に乗り…シンやルナマリアと同じ隊で共に死線を潜って闘っていたザフトの軍人だ」
「ザフトの軍人…?」
レイは一瞬、自分の耳を疑った。
「そう。きみは紛れもない…ザフトのエリートだったんだ」
一つひとつを確認するようにアスランは話し続ける。横に座っている虚ろな顔をしたシンが気になったが今は事実を確認していくことしかできない。
「それと同時に、シンやルナマリアとはアカデミー時代からずっと仲の良い友人だったんだろ?」
ルナマリアを振り返ると彼女はシンを気遣いながら、ただ頷いた。レイはそれを見て戸惑っている。何かを考え込むように口を噤んでしまったレイに代わり、一人掛けのチェアに腰を下ろしていた老婆が寂しそうに笑う。
「やっぱり…レイは軍人さんだったんだねぇ」
年老いたユイの祖母は、目を細めて頷いた。
「あれは丁度、ロゴスと戦争が終わって前の議長がデスティニープランを発表した少し後かね。ザフトが大きな戦争をした頃…一機の脱出用ポッドがその先の5番ゲートに辿り付いたそうだよ。けれどその中には誰もいなくてね…この子が…ユイが湖の清掃にでかけた朝に…レイが打ち上げられていたのを見つけたんだよ」
アスランとルナマリアが何となく、ユイに視線をやると彼女はぷいと顔を逸らせてしまった。徹底的に話す気はないらしい。
「手には銃を持っていたし…ザフトの白いパイロットスーツを着ていたからもしかしたらと思ったんだけどねぇ…。いざレイが目を覚ましたら記憶はないし体は弱っているし…軍に連絡をしようと思ったんですけどね、もう少しレイの体が回復してからと…そう言っている間に私もレイのことを孫のような気持ちで見るようになってね」
「そう…でしたか」
メサイアであった出来事は大方、キラから聞いていた。ギルバート・デュランダルを撃ったのもレイだと聞いている。そしてその場にはタリアも居たということも。何を思ってあれだけデュランダルに忠実であったレイがキラではなく、義父とも呼べた彼を撃ったのかは知るよしもない。シンには勿論、その事実は伝えていなかった。どんな理由であれギルバートに忠誠を誓い、レイと共に闘っていたシンには酷だと思ったから、話さなかった。ただ爆発に巻き込まれたと伝えたら、シンはこの目でレイの死体を見るまでは信じないと頑なに否定し続けてきた。そして僅かな可能性を信じてレイを探し続けてきたのだ。
闘い続けることで、その存在を知らせるように。そしてほんの僅かなレイへと繋がる情報を掴むために。
アスランは頷いたまま、レイを見遣った。相変わらず表情の乏しい白磁のような顔。それはただ真っ直ぐにシンの方へと向いていた。しかしシンはそんなレイを見返すこともできず、目を伏せてしまっている。
「ユイ…あれを」
老婆はゆっくりと首を巡らせると出窓の傍に立っているユイに何やらか頼んだ。彼女は初め躊躇しているようだったが、その内に小さく頷いてキッチンへと姿を消す。しかしその数瞬後には掌に何かを持って帰ってきた。
「シン・アスカさん」
不本意そうに、ユイはシンの前に立った。名前を呼ばれたが直ぐに反応できないシンは幾分遅れて顔を上げる。目の前にピルケースに入った青と白の二色のカプセルと一枚のディスクが突きつけられた。
「あ…っ」
途端に我に返ると、彼女の手からひったくるようにして自分の掌の中に収めていた。
シンには、それに見覚えがあった。いや、あり過ぎるほどと言ってもいい。じっと見つめてシンはレイを見上げた。
あの日…。出撃前、自分はクローンだと言ったレイ。
そしてテロメアが短いのだと…未来がないと告白したレイの何かを諦めてしまっているような顔を思い出す。苦しそうに薬を飲んだ、あの時の、喪失するかもしれないという恐怖が今まざまざと蘇ってシンは思わず体を震わせた。
「これ…レイ…」
「体の調子が悪くなると飲んでいる。それを飲めば…今のところは問題なく生活を送れている」
何の病気か、さっぱり分からないがな。
そう付け加えて、レイはシンの手の中の薬を見下ろした。
目を見開いたままシンはディスクに視線を落とす。
「これは…」
「それ、開いたら貴方の名前があったんです。『シン・アスカ』これ、貴方の名前でしょう?」
「そう、名前…おれの…名前です」
かくかくと頷く。
「見られますか?」
アスランは巧く言葉を紡げないシンの代わりに尋ねるとユイは頷いて壁際に置いてあるコンピューターを指差した。
「そこにあります」
「ありがとう…。シン、ディスク貸して」
作品名:空と太陽を君に 作家名:ひわ子