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空と太陽を君に

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「レイは誰にも渡さない。もうレイは…二度と戦争とかプランとか、そんな事とは関係ない場所で幸せにならなくちゃいけないんだ」
どれほど時間が残されているかなんて、シンは知らない。そして知りたくもない。例えいつか終わりが来たって…。
「レイは言った。生きられる命なら、生きたいだろうって。それはもう二度、誰かの道具になったり誰かの代わりになることじゃない。レイはレイだって…レイのまま幸せになることだろっ?」
『シン…ふさけるなよ。お前の命はもう、お前一人が勝手決めていい命じゃない』
傲岸不遜な物言いだった。それにまんまとカチンときて、シンは通信のボリュームを上げる。
「な…なんだよ、それ!俺の命は俺のものだし、どう使おうがレイに関係ないだろっ」
『この大馬鹿が!』
「ばっ…馬鹿って言うなよ、レイの馬鹿っ」
『こらこらっ、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょっ』
一方的にルナマリアが回線を割り込ませて、不毛に続きそうな会話を打ち切ると同時に、インパルスを拘束していたジンの腕が唐突に離れた。
『くそぉぉ…貴様ら…っ』
がくんと機体が傾いたのを慌てて立て直すと、回線からジンのパイロットの呻き声が聞こえてきて、シンは慌ててモニターを見るとなぜか機体からモクモクと煙が上がっている。
いつの間にか、だ。
「え…なんで…?」
『なんでじゃないの。アンタとレイが盛大な痴話げんかをやらかしてる間に、私が背後から回りこんでジンのメインモニターを壊してシンを捕まえている右腕を攻撃したというだけの話でしょ』
さばさばとしたルナマリアの声は心底、呆れ気味だ。更にヴェサリウスからはアスランのものと思しき溜息が伝わってきて、シンは小さく項垂れてしまった。これではまるで、もの凄く恥ずかしい会話を、全回線を開いてやってしまったようなものではないだろうか。
居た堪れない…。
『ルナマリア、ジンを捕獲したまま外部からハッチを開いて自爆コードを解除してくれ。シンはパイロットを確保』
『了解』
「了解」
シンもインパルスをジンに寄せてコクピットを開いたまま、備え付けられている銃を持ってルナマリアの援護に向かった。

***

政務室ではアスランがチェックボードを片手に捕獲したデスティニープラン推奨派の男から事情聴取した結果をルイーズに報告していた。
「結局、彼は自分の名も告げぬまま舌を噛んで自ら命を絶ちました。ただ我武者羅にデュランダル議長は正しかったのだと…。今のプラント政府へとの恨み言と、そして今回の首謀者はライトナー議長のよく知る人物たちだと」
「そう…よく知る人物だと言ったの」
コツコツと政務室の床を鳴らして歩き、ルイーズは強化ガラスはめ込まれた窓を覆うブラインド開いた。しかし、日はすでに落ちてしまいそこにはアプリリウスの街の光が溢れているだけだ。
今、見る彼女の背中はどこか小ささを感じてアスランは、軽く俯くと視線を逸らす。
「議長…」
「以前、デュランダル議長を心酔していた若い議員がいたわ。プランの事も当初は戸惑っていたようだけど、最後は賛成して混乱するプラント市民に呼びかけていた。正しいのは議長なのだから、信じてついていけばいいのだと。そうすれば戦争のない平和な時代が来ると声高に叫んでいた」
今でも思い出せる。
驚いた自分たちより遥かに早い順応性を見せた、新人の若手議員たちはデュランダルを信じきっていた。彼こそ平和へと導いてくれる主導者の筈だと疑いもせず。彼女たちの目の光を思い出すたびに、胸が締め付けられる気がした。
平和を思う気持ちは誰もが同じだった。
「デュランダル政権が瓦解した時に、議員を依願退職した議員が二人いましたね」
アスランは直接その人物たちを見たことはないが、書類の上で知った。
「そうね、二人いたわ」
ルイーズは疲れたように瞼を下ろして、息をつくと自分の机に戻りデスクの引き出しの一番上から二枚の書類を取り出しアスランへと差し出した。
「失礼します」
そう言って受け取った書類は、履歴書のようなものだった。
「これは…」
「クリスタ・オーベルク、ノイ・カザエフスキー」
アスランが書類に視線を落とすと、そこには若い女性議員の名前と経歴、そして顔写真が記されてある。ルイーズは自嘲するように口元を歪ませて笑った。
「彼女たち二人の行方が半年以上前から掴めないのよ。とても仕事に熱心でプラントの為に必死で働いていたわ。勿論、私もよく知っている。同じ女性議員だったし…よく判らないことを質問に来ていたりしたから」
「…そう、ですか…」
何となく、ルイーズが言いたかったことをアスランは察して労わるように、目の前の議長を、目を細めて見つめる。
「止められなかった、私のせいかしらね」
振り返った悲しい笑顔は、アスランが昔からよく知る彼女のものとは随分と違っていて年月の流れの速さと、彼女の負っている責任の重さを痛感するのだ。
「議長のせいではありません。例え、もしこの二人の議員が事を起こしていなかったとしても、誰かが必ず同じことを繰り返していたでしょう」
「そうね。それでもデュランダル議長は…信頼に足るとても立派な代表だったわ…」
突然の、プランの導入実行がなければ…。ルイーズ自身は賛成とも反対とも取れない思いだった。恐らくもっと別の手段で別の時期に行えばもっと違った結果が生まれたのではないかと思っている。なぜ、ああもデュランダルは焦ってしまったのか…それは今となっては誰も知る由がない。そしてプランを根本から認められず闘ったアスランは今後に対して責任を取るねばならない立場にある。
「プラン導入の先、例え戦争がない平和な世界がきたとしても、遺伝子配列で全てを振り分けられ自由に夢さえ見ることも出来ない世界なら…私は人が人である意味がどこにあるのかすら、分かりません。苦しんでも悲しんでも…自分で掴み取れる可能性が1パーセントでも残っているなら…私はそれに懸けたいと…そう思ったのです。だから闘いました」
ぐっと拳を握ったアスランに、ルイーズは慌てて首を振った。
「分かっているわ。誰が正しいとか正しくないとかそんな価値観は必要ないのよ。プラントは今、人類が混乱し尚、争いの火種になるプランの導入中止の決断を下した。それだけよ」
「はい…」
「とにかく、今は二人の行方を捜して頂戴。テロは許されることじゃないわ。毅然とした姿勢が大切よ」
「了解しました。直ぐに調査隊を結成させます」
チェックボードに一つひとつ確認しながら入力するアスランは、ふと思い出したように言った。
「議長…シン・アスカとレイ・ザ・バレルですが…」
「シンには私の方からたっぷり叱っておいたから。レイに関しては…もしかするとまた狙われるかもしれないわ…幾ら今、彼に記憶がないと言っても推奨派の人間にとっては関係ない…寧ろ好都合かもしれない。今は保安部もはりついているシンの自宅にいるから…恐らくは安全だと思うけど、アスランも気にしてやって頂戴」
「はい」
「暫らく、あの二人はそっとしておこうと思うのよ。勿論、シンには軍の仕事はして貰うけど…それ以外は口に出さないつもり。アスランもそのつもりでいて頂戴」
「…分かりました」
作品名:空と太陽を君に 作家名:ひわ子