空と太陽を君に
思わず身を捩じらせて指から逃れようとしたが、執拗に触れてくる指は時折、突起を掠めシンは背筋を震わせた。
「レイ、レイってばっ」
「少し静かにしていろ」
唐突に腕を伸ばされ鼻をむにっと摘まれて、シンは眉を寄せた。何か抵抗の手段を…そう思っている内にあれよあれよと云う間にシャツの袖が抜かれて上半身を外気に晒していた。
流石にシンはぎょっと目を剥くと、本気でレイの体を押しのけて身を捩る。
「レイ、やだって!」
「シン、シン…じっとしていろ」
「あっ」
耳元で囁いて、胸を弄るのは反則だと思う。器用な指の先は快感を引き出すために、くりくりと弄ったり、時々、千切れてしまうのではないかと思うほどぎゅうっと引っ張ったりするのだ。その内にしこって美味しい果実になる。
「レイっ、だめ…だって」
久しぶりの刺激に、直ぐに息が上がった。
耳朶に口付けられる。レイの唇はほっそりとしたシンの項を通って、頬に移り悪戯するように瞼に口付けてから、また首筋に戻る。時々、強く吸われて白い肌に朱色が散った。
「ん…」
余りの優しいそれに、シンはぼんやりと瞳を潤ませていたが、愛撫が首筋から更に下へと移った瞬間、何かを思い出したようにまた暴れだした。
「レイ!駄目って言ったろっ」
「シン…何をそんなに拒む?」
「いや…だって、医者が…安静にって…っ」
「…考慮する」
「レイ〜!」
焦った挙句、言い訳が何とも分かりやすいもので、自分で「しまった」と思う。本当は凄くドキドキとしているのだ。考えても見たら一年以上前、メサイアの基地で触れ合った時以来だ。再び、会えてからもレイの記憶が無くなっていたり、シン自身が入院したりでそれどころではなかった。
それに…。
「あの、だって、ほら…」
レイの一見、冷たいとも取れる目を見上げて、おずおずと自分の腕で隠した左鎖骨の上部を少しだけ覗かせる。真っ白い肌にそこだけ抉れたような傷。そこを中心に引き攣れたように歪んだ弧を描いている。そこにはレイを庇った時の銃弾の痕が、まだ生々しく無残な姿を晒していた。軽く目を瞠ったレイに、シンは剥がされたシーツを手で引っ張り上げて体を覆った。
「………」
「こんなの、見るの嫌だろ…。俺だって、レイに見せるの嫌だ」
「…気にすると、答えればお前は納得するのか?」
隠されてしまったそこを、レイはまた人差し指でシーツを引っ掛けてずり下ろして露わにすると、頭を下げてそっと唇に触れさせた。
「や…レイ、やめろっ」
まさかレイがそんな行動に及ぶとは想像もつかず、シンは驚いて身を竦ませた。びりりと快楽とも痛みとも違う不思議な刺激が走って眉を寄せる。
「俺は気にしないが…お前が気にするなら、完全に完治してから腕のいい皮膚移植の専門医を探す。確かにお前の肌に違う男がつけた傷痕が残っているのは…面白くないな」
そっと確かめるように何度も指で触れた。それがシンにとっては拷問されているように思えてくる。レイはきっと気にしないと言いながら気にするだろうから彼には余り見せたくない。
ちゅっと、音を立てて傷跡にレイが口付けた。
「あっ」
「けど…お前が俺を守ってくれた確かな証だ。これを見ていると勘違いする。他人がつけた痕なのにシンが俺のものだという証拠のような…そんな馬鹿な錯覚だ」
苦笑したレイの髪が剥き出しの胸をさらさらと擽って、シンは困ったように瞳を伏せた。
「シン…しよう?」
もう一度、今度は唇に口付けて、小さく離したまま誘う。レイの吐く息が唇にあたって気持ちがいい。シンは小さく震えた。
「レイ…」
「お前を感じたい。もっと深い場所で…繋がろう」
きっとレイじゃなければ、殴っていたような台詞を当然のように囁かれて、シンは体が熱くなるのを感じた。
思わずコクンと一つ頷いて、自分から腕を伸ばしてレイの頭を抱き寄せる。
(やっぱ、好きなんだ…レイのこと。好きで好きでどうしようもないんだ…)
どうして、こんなに好きなんだろう。
何度目かのキスの後、固く尖った胸を吸われながら、ゆるゆると掌で追い上げられてシンはレイの肩に額を押し付けて射精を耐えた。
「…っん」
「我慢しなくていい。一度出せばすっきりする」
「だって、レイ…っああ」
先端の小さな穴に爪を立て、そのまま指で挫かれる。
「ひゃ、あっ」
直ぐにポタポタと雫が溢れてレイの手を濡らし、滑りをよくした。一年以上、余りの切羽詰った日々に忙殺されて自慰すらろくにしていなかった体には強すぎる刺激だった。立てた膝の間に割り込んだレイの体をぎゅっと挟み込んで息を止める。
拙いと思う暇すらなく、レイの掌に放っていた。全身を倦怠感が覆う。
「あ、ふ…っ」
肩と胸を上下させて乱れた呼吸を整えようと目を薄っすら開くと、レイは自分の手に放たれたものをぺろりと舐めて不敵に笑っている最中だったのだ。
「あ…舐めんなっ」
一瞬、呆然とした後、直ぐに真っ赤になって抗議するとレイは頬を緩めた。
「確かに濃いな。…お前の体を知っているのは…俺だけだな?」
「当たり前だっ」
何でこんな恥ずかしいことを言うのだろうと思う。
「ならいい」
再びシンの上に覆いかぶさり髪にキスして、レイは身を屈めるとそっとシン自身に舌を這わせた。
「あ…」
レイの唐突過ぎる愛撫にシンは言葉も出ない。ぬるりと温かい口腔に包まれてシンはひくりと喉を鳴らした。
「や、レイ…そんなとこ、舐めたら…っ」
ちゅくっと濡れた音が静かな部屋に響いて恥ずかしい。さっきイッたばかりの性器はまた勃ち上がりレイの舌の上にぽたぽたと雫を零していた。淡い茂みに指を絡ませ、舌先で先端を擽り丁寧に裏筋を通って舐め上げる。その度に、びくびくとシンの体は痙攣してレイに快楽の深さを伝えてきた。
「レイ、レ…イ、あ…あ、うんんっ」
声が止まらない。シンは自分の指を噛んで堪えようとするのに、レイが腕で払うのでそれさえ意味もなく無駄に終わる。
喉の奥深くに咥えられて、ざらついた場所で迎え入れられてシンは頭が熱に浮かされるようにぼんやりとしてきた。
「や…レイ、くち…い、くっ」
指を伸ばして自分の股間に顔を埋めているレイの頭を引き剥がそうとするのに、金糸のような綺麗な髪を力なくかき乱すだけに止まった。
「レイっ」
悲鳴のようなシンの叫び声にもぴくりとも眉を動かさない。
「いけばいい」
そう言いながら一際強く吸い付いた。
その途端、まるで電流を流したようにびくんと体が震えた。
「あ、あああっ」
とくんと、舌に広がる独特の青苦い味。レイは半分飲み込んで、脱力してシーツに埋まっているシンの足を広げて気持ち抱え上げると、間髪いれずに覗いた小さな孔にそっと口をつけた。
「れ、い…?」
固く窄まっているそこに、先ほどシンが放ったものを垂らす。その後、確かめるようにぬるつくそこに指を一本、挿入した。
「いっ…」
シーツの上を細い腰が逃げるように捩られた。しかし、レイは片手でそれを難なく縫いとめて彼の感じる場所を丁寧に探していく。
「やだ、レイ…やっ」