空と太陽を君に
ゆっくりと緩慢に揺さぶられて世界がぐるぐると回るようだった。内から起こる熱に浮かされそうになりながら、何とか意識を保とうと床部分に接着してある膝丈ほどしかない高さの机に縋るようにうつ伏せのまま掴まって何とか耐えている。
「シン…辛いか?」
耳元に、僅かに息を乱しながら掠れた声で囁かれてシンは結合部をぎゅっと締め付けた。その途端にまたレイが大きくなるのを感じて頬が熱くなる。
「へ…き。だいじょうぶだから…」
もっと。
唇が音を立てずに紡いだ。レイはそれを読み取ると息をつくように笑った。頬にかかる金色の髪を無造作にかきあげて、ぼんやりと視線だけをこちらに寄越しているシンと目を合わせる。
事に及んでいる時のシンの瞳は、いつもよりも赤が濃くなる。汗をかいて額に張り付いてしまった髪をかきあげてやると、より露わになって剥き出しの彼に触れたような錯覚に陥る。
吸い込まれそうだった。
デスクの端に爪を立てるようにして掴まっているシンの手の甲を、レイはそっと壊れ物に触れるように掌で包み込んだ。
温もりにじわりと赤い目が潤む。
「レイ」
「…どうした?」
「おれ、上に乗る」
突然、シンが卓上に肘をついて身を起こそうとした。それを慌てて制しながらレイは首を傾げる。
「このままでいい」
「だって、レイ…しんどいだろ?」
途切れ途切れに紡がれる彼の言葉の真意。それは自分の老いていく体のことだと気づいた。
そうだった。
こいつは、酷く優しい。
時には残酷なほど…。
レイは瞳を細めると、背中から抱きしめた。
「このままでいい」
「で、も…」
「シンは嫌か?」
逆に問い返すと、ぶるぶると首を横に振ってシンは答えた。長めの前髪がぱさぱさと白い額に散る。
「嫌じゃ、ない…けど」
「なら、このままがいい」
「レ…っあ」
これ以上、シンがごねないように何度か擦りつけるように腰を揺らした。
「レイ…っ」
軍服を剥ぎ取られた背中、アンダーシャツをたくし上げられて細い肩甲骨が見えた。真っ白い肌に痕をつけるようにして、レイは口付ける。
「あっ」
レイの体の下で小さく震えながら、喘いだ声さえ今はレイの中の官能を擽った。
「シン」
ちゅっと音を立てて吸い付くと、耐え切れなくなったようにシンは瞼を下ろして眉を寄せた。その彼の背中をゆっくりと掌でなぞる。数箇所、まるで自分の印を刻むように強く痕をつけた場所がある。
項と肩、そして脇腹…。
それは濃い朱色を落としたように鮮やかにそこに在った。
不思議な、気持ちになる。
本物の雪を、見たことはないけれど…昔ギルバートに連れられて行ったプラントの地球科学館で見た雪原のフォログラム。自分は美しいと思った。けれど、どこか悲しさがあった。真っ白で、何にも穢されずに夢を見ながら眠るように横たわっている景色。
そのまま、ずっと見つめていたかった。
そしてそれと同時に考えたのだ。
そこに足跡を最初に付けた人間はどんな気持ちになるのだろうと。今、自分はその気持ちを味わっている。
どうしようもない、享楽に似た悦びと…罪悪感だ。
それに気がついてレイは動けなくなった。
(馬鹿な…)
じっとりと、背中に汗をかく。ふと寒気が襲った。
「レイ…?」
固まってしまったレイを訝しむように、シンが名前を呼ぶ。それと同時に貫いている場所がレイを奥へと誘い込むようにして蠢いた。
「…っ」
その感覚に息を呑んで、快楽で痺れそうになる頭をクリアにするようにぶるぶると振った。
「れ…ぃ、あ…」
今は何も考えたくない。
シンだけを感じていたかった。
「…シン、動くぞ?」
「ん、んんっ」
返事なのか抑えられなくなった意味を成さない喘ぎ声だったのか、レイに判別はつかない。シンの細い腰を両手で掴んで、何もかもをぶつけるようにして腰を前後左右に揺らした。
「や、あ…あっ、あっ」
じゅくじゅくと濡れた音が響く。それをどこか遠くで聞いていたシンは、ただ体の熱さにおかしくなりそうだった。
「っく、は…あ、ンっ」
女みたいな声が恥ずかしくて、なるべく唇を噛んで喉の奥で殺そうとした。けれどそんな自分に気がついたのかレイが角度を変えた。
「やあっ」
体が一瞬、持ち上がるほど深く抉られる。
勃ち上がった性器の先端、その小さな穴からぴゅっと雫が飛び出て床へと散った。
「あ、だめ…レイ、そこ…だめっ」
「どうして?お前はここが好きだろう?」
意地悪く耳朶を噛まれながら囁かれた言葉にさえ感じて、シンは呻いた。体の内部にあるぷっくりと膨らんだと場所、そこはレイが知っているシンの一番いい場所だった。そこを触れられるとシンは正気ではいられなくなってしまうのだ。レイに知られてからは散々、綺麗な節ばった指やレイ自身にも弄られ、問答無用でいかされた。
「レイッ」
悲鳴を上げて、逃げるように浮いた腰を押さえつけると、レイはずるりと引き抜いて再び勢いよく押し込んだ。
「あ、ひっ…やあっ」
それでも黙って包み込んでくれるシンの体をレイはひたすら追い上げた。無意識の内に収縮しはじめた粘膜を摩擦して熱を煽る。
「だめっ…いく…いっ、ちゃうからっ」
「いけぱいい。オレもいく」
「や、いっしょ、に…いっしょがっ」
いいから。
飲み込めなくなった唾液が顎を伝うのさえ、気づかない。レイの動きに身を任せると体は痛いのに何だか解放された気持ちだった。
「シン…」
腰を掴んでいる指に力が入る。レイは自分も体を倒してシンの背中に覆い被さると彼の項に顔を埋めた。
「ん…ふあっ」
そのまま何度もピストン運動を繰り返して、片方の手を前へと回すとすでにシンのものからは堪えきれなくなった蜜がたらたらと垂れて床へと水溜りを作っていた。
レイは気づかれないようにそっと笑って、指先に力を込めると先端の窪みに爪を立てる。
「やああっ」
途端に悲鳴が上がって、魚のように跳ねた体を抱きすくめるとレイは二人の欲望を解放すべく意識を集中させた。
やがて上がってくる射精感に身を任せる。
「シン…いく、ぞ」
「あ、う…あ…んんっ」
じゅぷじゅぷと熱い幹を擦り上げて、先端を指先で挫いた刹那。シンの体がびくりと震えた。
「ひ、ああああっ」
ぷしゅっと鈍い音と同時に、シンが蜜を吹き零した。今日は何度も出しているせいかすでに透明に近い色で、だらしなく滴り落ちる。
「や…ああ…あ…」
びくんびくんと、無意識に痙攣する体。レイを銜え込んでいるその場所もシンの意識の外で痙攣を繰り返し強烈に締め付けた。
「…っん」
思わずため息が漏れて、レイもまた僅かに遅れてシンの中へと欲望を吐き出す。
「あ…っ」
体内に吐き出された熱に浮かされるように、力なく声を出すと意識を飛ばしていた。
(レイ、の…でて、る…)
長い射精を終えて、息をつくレイを体の中で感じながらシンは薄っすらと微笑んだ。
なぜだろう。
馬鹿みたいに満たされた気持ちになる。
後始末が大変だとか、お腹が痛くなるとか、これから誰かを殺しに行かなきゃいけないとか、そんな事、どうでもよかった。
「シン…」
レイが机の上に突っ伏した背中に一つ唇を落としていきながら、腰を引くとまた摩擦が生まれて震えてしまう。
「んっ」