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空と太陽を君に

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今その言葉を聞いたら、きっと自分は死ぬ。
暗い宇宙の底で、消えてしまう。
お前と離れて、遠く離れて、二度と会えなくて触れられない。
何もない。レイしかない。
マユもステラも父さんも母さんも…誰もいない。
掌に乗せた砂がサラサラと零れるように最後は何も残らないなら…。

だから勇気を頂戴。
これから、ずっと…一人で生きていけるだけの勇気を。

 何も言わずに抱きしめてくるレイにしがみついて、体に刻みつくぐらい覚えよう。

 きっとレイとはもう会えない気がした。







ピピピピピッ
枕元でいやに高い電子音が鳴り響いて、シンは眉を寄せて小さく唸る。
「うぅ…」
眠い。
何だか、とても悲しい夢を見ていた気がする。けれど思い出せなくてシンは自分の手の甲で濡れた目頭を擦って涙を払った。
ごそごそとプラントでは珍しい羽毛布団の波の狭間から腕をにょっきりと出して、アラームを止めた。
「あと、1時間…」
ごにょごにょと布団の中へと潜り込みながら、久しぶりの自分のシーツの感触に身を任せたい。
昨日、議長に命じられていた特別任務を終えて半月ぶりにこの自宅へと明け方に帰り着いたのだ。ただ今の時刻は午前7時。      ベッドに入ったのは午前3時を回った頃だったので3時間程度しか睡眠が取れていなかった。
ただでさえ、任務で艦に乗っている時は睡眠障害に陥ってしまい、おちおちと眠ることもできないので疲労が溜まっていたのだ。しかも倒れこむように眠ったので、シャワーも浴びていないしアンダーシャツも着替えていない。シンがベッドを下りてからしなければならない事はそれこそ山ほどあったわけだが、生憎と睡魔には弱いのだ。
暫らく、うとうとと意識が飛びかけた瞬間、今度は寝室に備え付けてある電話が五月蝿く鳴り出して、シンは大きく溜息をついた。
仕方ないともう一度、腕を伸ばしてベッドサイドに置いてある小さなデスクの上に乗った電話を取って通話ボタンを押した。耳に当てると、いかにも今の今まで寝ていましたよと言わんばかりの掠れた声が喉から絞りだされる。
「…もしもし」
『ちょっと、シン!まだ寝てるの?』
「…ルナァ?」
『ルナァ〜?じゃないわよ!今、何時だと思ってんの!』
「何時って…」
彼女特有の高い声は、眠気でぼんやりしているシンの頭によく響く。シンは漸く観念すると薄っすら瞳を開いてクリーム色をした天井を見つめた。ベッドの頭の向きに大きなガラス張りの出窓があって、ブラインドを半分しか下ろしていなかったせいでプラントに存在する偽者の太陽の光が、さわさわと部屋へと降り注いでいる。
温かそうだな…。
未だにはっきりと覚醒しない頭でそんなことを思って、ルナマリアの質問に答えるべく、傍らに置いてあるデジタル時計をちらりと見遣る。
「何時…8時…12…?」
『そう、8時過ぎてるのよっ』
「は…ち…はち…うそっ」
何度か口の中で繰り返して、シンは受話器をぎゅっと握り締めたまま飛び起きた。どうやらアラームを止めてから一時間以上経過してしまっていたらしい。
『あんた、今日9時から議長に任務報告の面会の約束してるんじゃなかったっけ?しかも10時から隊長クラスが評議会ビルで集まって定例会議するんでしょ!』
「そうだよ!何でもっと早く電話してくんないんだよ、ルナ!」
慌ててベッドを飛び出して、シンは素足のまま受話器を片手にシャワールームへと走りこんだ。
『7時過ぎに電話しても出なかったじゃない!』
「嘘だろ?鳴らなかったぞっ」
『もう、アンタにモーニングコールするのやめるわよ』
途端に恨めしそうなルナマリアの声にシンはブルブルと首を振った。
「うそ、ごめんっ、ありがと、ルナ!」
『とにかく、急ぎなさいよ?…あ、あと服とかちゃんとクリーニングから返ってきたやつ着るのよ』
判った?
念押しをして通話は一方的に切られた。シンはシャツを脱ぐとそのまま洗濯機に放り込んで風呂場の扉を開いてシャワーのノズルを捻った。
「あ、っち!」
久しく弄っていなかったので温度設定を忘れていた。慌てて見れば50度に設定してある。それを40度まで下げて一応、手で確認してから剥き出しの体にあてた。
さわさわと、柔らかいお湯が肌を滑る感触が気持ちよかった。それでも、さっき熱いお湯を当ててしまった左の肩と胸は赤くなってしまっているが、冷やす暇などないのだ。
ソープをつけて泡立てるとシンは一先ず体を洗うことに集中した。


CE44年、L5コロニー群に造られたこのアプリリウス市はこの無限に広がる宇宙に造られた人間の第二の故郷であり、コーディネーターの楽園とも言うべきプラントの首都だ。
そこはプラントと言っても人工的に木々を植樹し湖を掘り市民の憩いの場と、それと同時に政治を動かす中心となるべき場所、最高評議会ビルが存在している。更には商業的にもかなり大きな都市が築かれておりプラントの中心となるべき市であった。
ところが、CE73年。プラントと地球連合…否、コーディネーターとナチュラルの間で一旦、終結した筈だった争いが燻り続けていた火種のためとうとう戦争へと向かってしまったこの年。ブルーコスモスの盟主でもあるロード・ジブリールの放ったレクイエムがプラントを引き裂いた。直撃は免れたものの、多大な被害と犠牲を出してしまったというのに、今ではすっかりと復旧され元通りの街の姿に摩り替わっていた。
居住区の一角にある高級住宅地のマンションの一室に、シン・アスカの住まいはあった。戦争の功労者と同時に最重要監視対象者でもある彼を現議長が目の届く場所においておきたいがために無償で部屋を与えられたのだ。
ただ一つだけ、駄目元で議長の下で飼われることを了承するある条件を出したが、政府と軍指令本部は受け入れたのだ。
まさか了承されるとは思っていなかったので驚きを超えて半分ほど呆れてしまったが、そうなれば勿論シンに否はない。
放り出されたデスティニープラン。そして一応の地球連合との停戦。またオーブ・スカンジナビア王国との和解が進んでいる現状で、自分に出来ることは何かと考えたらモビルスーツに乗ることしかできない。プラント復旧に向けた作業支援をし、未だにあっちこっちに燻る火種を消していくことしか出来ないからだ。

大切なのはこれからだと…教えてくれた人は…今は傍にいない。
シンはシャワーヘッドをかけてお湯を止めると水滴を払うように、ぶるぶると頭を振った。
身だしなみはきちんとしろ。
それも、今は傍にいない…自分のとても大切な人の言葉だ。だから時間がなくてもシンはシャワーを浴びた。後から後から垂れてくる雫を乱暴に手の甲で払い落として、壁のフックにかけていた大きなタオルを取ると足早に脱衣所に出た。
「髪かわかさないと…爆発だろうなー」
うへぇーと肩を落として、がしがしと髪と体を拭って、シンは裸のままドライヤーを手に取るとスイッチを入れた。
ゴウゴウと熱風が見た目に反して柔らかい髪を撫ぜる。
それから閉じていた目を開けて、シンは鏡の中の自分を見た。そこに写っているのは少しだけ前髪の伸びた赤い目をした自分の顔だ。
作品名:空と太陽を君に 作家名:ひわ子