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空と太陽を君に

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別に鏡を凝視するのは、自分の顔が好きだからではない。寧ろ、こんな色白で赤目の女顔は嫌いだった。もっと男らしいのが好きなのだ。
眉なんて太くて、瞳ももっと黒とかグレイとかブラウンとか普通ので。
「………」
それでも、この顔を好きだと言ってくれた人がいたから。誰よりも自分の瞳の色も肌の白さも好きだと言ってくれた人がいたから、自分も少しだけ好きになれた。
なるべく嫌いだなんて思わないようにしようと、そう思えるようになったのだ。
粗方、髪が乾いたのでドライヤーを置いて手櫛で最後の仕上げとばかり整える。それからもう一度、鏡の中の自分と目を合わせた。
腕を伸ばして、写った顔の輪郭の線をなぞるように指を這わせる。指の先に冷たい感触がして苦笑した。
「レイ…おはよ」
いつだったか、彼は言っていた。
例え死んだとしても、傍にいないとしても自分が殺さない限りその相手は胸の中で生き続ける。
その通りだ。
ちゃんといる。
ちゃんといるよ。
「おれ、ここにいるよ…レイ」
会いに来て、帰って来て、オレの傍にいて、いなくてもいいから…声がききたい。
…うそ、居て欲しいよ…。
我侭で、欲張りでごめん。
「いい子で待ってるから…帰ってきてよ、レイ」
口に出してしまい、思わず涙腺が壊れかけたが鏡についた掌で拳を握ることで耐え切った。
「仕事、行かなきゃな」
ぱちんと両手で頬を叩き気合を入れると、シンの瞳はすでに真正面に向いていた。着替えようと脱衣所の扉を開けたところでマンションの入り口に設置されてあるインターフォンが鳴った。
「あ…やべ」
どうやら、もたもたしている内に迎えが来てしまったようだ。取り敢えず下着だけ穿いて慌てて出るといつもの運転手の姿がある。
定時の時間、いつもの服装、いつもの挨拶は変わりない。これはシンが、迎えが付くほど立場上偉くなったわけではない。勿論、フェイスという肩書きはあってもまだまだ軍に入って二年が過ぎただけだ。これはシンが軍の監視対象者であるが故の措置だった。もう今更、鬱陶しいとも何とも思わなくなったし、寧ろ迎えに来てくれるならありがたいと思う。
『おはようございます。お迎えにあがりました』
「おはようございますっ、て、ちょっと待ってて下さいっ十分くらいっ」
がちゃんと返事も待たずにインターフォンを切ると大急ぎで、寝室に戻る。時間を見るとすでに8時半だ。
「うあー、もう!絶対遅刻だよ、こりゃ」
寝乱れたままのベッドも片付ける時間はない。朝食なんて問題外だ。アンダーシャツを着ながらクローゼットの扉を開いて、クリーニングの袋がかかっている赤い色の軍服を取り出した。
透明な袋も、ぐしゃぐしゃっと手で丸めると近くのゴミ箱に向かって投げつける。
「あ、くそっ」
生憎と入らずにころりと床へ転がった。ちなみにそんなものを拾っている暇もない。転がってしまった袋はそのままに、シンは軍服に袖を通して襟をパチンパチンと止めてくる。最後の留めがねを一瞬、躊躇したがそのままきちんと留めた。ベッドのサイドデスクの引き出しを開けてフェイスバッヂを付けると一応、クローゼット内部に備え付けてある鏡の前でチェックをした。
「良し…えっと、忘れ物…あ!会議用のディスク!」
再びベッドの横に戻って、昨日帰ってきたままの大きな鞄から数枚のディスクを取り出してポケットに突っ込んだ。
そのまま寝室の扉へと向かうと、開いたままのクローゼットの扉が気になって二の足を踏んだ。
「…うーもうっ」
踵を返して、扉に手をかけた刹那。
自分のものが掛かっているのとは別の場所にかけた一枚の赤い軍服に視線が止まった。そこにも、自分の胸に付いているのと同じフェイスバッヂがついている。
思わず、じっと見つめてしまったまま時が止まったように感じた。小さく俯いて瞳を僅かに細めるとシンは泣きそうに顔を歪めながら静かに扉を閉めた。
もうこの際、ついでとばかりに転がっているナイロン袋も拾ってゴミ箱に突っ込んでシンは漸く部屋を後にしたのだった。

***

「隊長…アスカ隊長!」
アカデミーを卒業したての若い兵士が、遠くにシンの姿を見つけて瞳を輝かせた。
大声を張り上げて名前を呼ぶと、そこらを歩いていたグレイの軍服やら白の上官やそこで働く職員たちが、何事かと一様に驚いて振り返った。
「お帰りなさい、隊長ー!」
バタバタと五月蝿い足音が段々と近づいてきて、シンは立ち止まると漸く背後を振り返った。
「隊長!」
緑色の真新しい軍服に身を包んだ初々しさに、何となく微笑ましく思ってシンもまた口元に笑みを浮かべる。
「あーレオンじゃん…何か久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです!任務お疲れ様でしたっ…どうでしたか?」
まるでシンの口からお伽話でも飛び出すのではないかと期待しているような口ぶりに苦笑する。
「別に、オレは何もしてないよ」
議長政務室に向かうシンの傍らに寄り添って、彼は自分の上官を眩しそうに見上げた。この少年のような仕官は戦後処理とデスティニープラン収束のためにアカデミーの教師までもが借り出され、シンが一度だけナイフ戦術の授業を受け持ったことがあったのだ。(それほど人手不足だった)その時に二年生でもう直ぐ卒業だと言うのに随分と怖がりのへっぴり腰がいた。彼はシンが成り行きとは言え初めて受け持った生徒の一人だったのだ。
それ以来、何かあるたびに懐いてくる。元々、長男の上に兄気質のシンは頼られると悪い気もせず、何だかんだと相談に乗ったりしていた。
「それよりお前どうしたんだよ、こんなところで」
アカデミーを卒業したての一兵士がおいそれと簡単にこられるような場所ではない筈だ。首を傾げるとまだ少年の面持ちをした彼が晴れやかに笑う。こうして見ていると本当に幼いなと思う。年齢だってそう変わらないし元々童顔のシンと比べてもまだ子どもだ。
ふと思った。自分も、もしかしたらアカデミーを出たての頃はこんな顔をしていたのかもしれない。それからたった2年ほどだ。その僅かの日々の間に随分と遠くへと来てしまった気がして、何だか胸が締め付けられるようだった。無意識の内に握った掌を開いてみるのが時々、怖くなったりするのだ。
「怪我で卒業が遅れて…今日は正式に辞令を受け取ったんです。アスカ隊長の隊に今日付けで配属になりました!」
びしりと敬礼してみせる姿が何だか可笑しくてシンも、もやもやした気持ちが少し晴れた気がして笑いながら敬礼を返した。
「そっか、よろしくな」
「これから隊長はどこへ行かれるんでありますか?」
「オレは…ちょっと議長の所へ…ってそうだった、遅刻してんだ!」
シンは我に返ると慌てて駆け出した。
「ごめん、えとオレの隊って言っても、俺はほとんど独断で動いてて、取り仕切ってるのルナマリア・ホークって奴だから!」
そいつに聞いて!
それだけ言うとシンは大急ぎで議長政務室への直通エレベーターを目指した。
作品名:空と太陽を君に 作家名:ひわ子