二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

空と太陽を君に

INDEX|8ページ/31ページ|

次のページ前のページ
 

デスティニープランはそんな悲しい世界にならない為の一つの手段だとシンは思っていた。そう、理解していたわけではない。あの日アスラン・ザラが言ったようにそれは逆に世界の全てを殺してしまうものだったのかもしれない。その指摘はいつまでも迷い揺れ続けるシンの心を刺激し続けた。
けれど、強くなれと…レイが言ったから。
もう誰も苦しんだり不当な扱いを受けたり、殺されたりしない優しい温かい世界を守れと言ったから。
何よりも、そのシンの強い強い願いを具現化するための道しるべを示してくれた人はデュランダルしかいなかった。
そして…レイが苦しんでいたからだ。誰が放っておけるというのだろう。誰が無視などできるのだろう。
目の前で、レイが苦しんでいるのに…どうして知らん顔できるのだろう。
だから迷いながら決めたのだ。
それなのに、今はこうして新議長の元でデュランダル派の頭を押さえつける任務をこなし続けている。
(なにを、やっているんだろう)
あなたたちを、裏切っているんだろうか。
そんな思いが頭を掠めて、じわじわとシンを苦しめる。
けれど答えてくれる人は、ここにはいないのだ。

「シン・アスカ」
思わず自分の思考に囚われてしまっていたシンは唐突に声をかけられてびくりと肩を揺らして顔を上げた。
「はい」
「半月に渡る調査、ご苦労さま。以後は別命あるまで内勤の仕事になると思うが…一月後にはジュール隊と交代して月軌道の配備について貰おうと思っているから…それとメサイア周辺も…」
メサイアという名前を聞いて、また心に動揺が走る。思わず揺れた体を何とか誤魔化してシンはデスクに肘をついたルイーズの組んだ指ばかり見ていた。
ちらりとルイーズがこちらを見たがシンはあえて無表情のまま視線すら返さなかった。
「そのつもりで。以上よ」
彼女が話を切ったと同時に、背後の扉がタイミングを計っていたように開いた。それを背中で感じとりながら、指を伸ばして敬礼した。
「了解しました。では」
踵を返すと、歩き出す。
「ああ…シン」
またふいに名前を呼ばれる。シンは足を止めると振り返った。
「貴方との交換条件の一つが漸く片が付きました」
「えっ」
シンが驚きに軽く目を見開くと、ルイーズは引き出しの中から一枚のチェックボードを取り出して椅子から立ち上がりデスクを廻ってシンの元へと歩み寄った。
「メンデルの取り壊しが決定したわ」
「取り壊しが…」
「そうよ。貴方に条件として持ち出されて…昨日の閣議でね。議会で決議し案が通るまで一年もかかってしまったけど。あそこは人間の出生と命…そして無限の可能性が秘めらた故の…争いの全ての元凶ね」
それを、シンの掌に置くと軽く微笑んでみせた。
「取り壊しは半年後。その時は貴方も立ち会うといいわ。彼が生まれた…場所でもあるんだから」
思わず、ルイーズの背中を睨みつけていた。この人は時々なぜか残酷な物言いをするのだ。それがシンには堪らないく嫌な気持ちにさせられる。
何が無限の可能性だ。
レイから全てを、自分からはレイを奪い取ったくせに。
搾取するだけの場所のくせに!
しかしその思いを顔に出すことはなくなった。
「詳しくはアスランにでも聞いて頂戴」
「アスラン?」
「ええ、メンデル取り壊しの件の一切の指揮はアスラン・ザラに任せてあります。彼、今日はこの後ビルに来る予定だから聞いてみるといいわ」
「………」
チェックボードを握り締めて、相手が議長であるということを半ば忘れていた。一瞬、無表情だったシンの感情が波立ったのを見つめてルイーズは困ったように眉を寄せる。
「一年も立つのに、まだそんな事に拘っているの?アスラン・ザラには力がある。だから任せた。それだけに過ぎないわ。ザフトは…いえ、ここは実力主義ということを貴方が一番知っていると思うけど」
「知っています」
ぎしぎしと掌の中のそれが外部からの圧力に悲鳴をあげる。
「しかし議長…アスランは」
「裏切り者だから?」
シンとは反対に冷静なルイーズの声がシンに冷水を浴びせかけるように響く。
「貴方とこの件について議論する気は一切ないわ。貴方はただの一兵士ということを…忘れないで」
「…っ、失礼、しました!」
乱暴に言い放って、シンはくるりと背中を向けると足音も荒く出て行ってしまった。その場にぽつんと取り残されてしまったルイーズは苦笑する。
とんでもないじゃじゃ馬のようだ、彼は。
一年前の死んだような表情をした子と同一人物とは思えないほど今はしっかりと歩くようになった。少しずつ表情が戻ってきた。
それはそれで良かったと思うが、問題はもう一人のアスラン・ザラのようだ。二度に渡る裏切り行為の末に、シンとルナマリアを連れてどうしてもプラントの役に立ちたいと戻ってきた。
彼の真意は読めなかったが、ルイーズは了承した。勿論…反対の声がほとんどだったが、それは当然と言えば当然のことだ。   それでも一人意見を押し通した。
彼が、レノアの息子だから。真面目で不器用で彼もまた生きることが下手くそな一人の青年に過ぎなかった。
「貴方の父上と一緒ね…」
ボードを取り出したのとは反対側の鍵のついた引き出し。そっと指を伸ばして開くと一枚の写真を手に取った。
そこには遠い昔の…ザラ一家とルイーズが一緒に微笑んで写っていた。今は亡きパトリック・ザラも、レノアも、そして幼いアスランもそこには確かに存在したのだ。
ルイーズは目を細めると、指先で慈しむように撫でた。
「戦争なんて…誰も望んでいないのにね」
ねえ、レノア。
穏やかな笑みを絶やさない、ここにはいない優しい親友に語りかけた。

***


『前議長、ギルバート・デュランダル氏の唱えたデスティニープランは今現在、人類に混乱をきたすものとしプラント最高評議会はこの一年を目処に一旦の収束を全世界に向けて発信致しました。地球連合もそれに賛同しオーブを初めとする中立国家もまた全面的に協力体制の下…』

議会ビルの正面玄関にある大きなフルスクリーンから最新のニュースが生真面目そうなアナウンサーの口から淡々と読まれている。
シンはデータボードを片手にぼんやりと歩いて、なるべく明るい日差しが入り込まない観葉植物の陰になっている場所を選んで腰を下ろした。
議長との面談の後、会議に出たが滞りなく終わった途端に何だか激しく疲れてしまった。全身が泥に漬かった様に重たくて知らず知らず溜息が零れる。
ここは相変わらず、ざわざわとうるさい。
人の声と場所柄、発生するノイズのような雑音に耳の奥が不快だった。
(うるさいな…)
ぽすん、と柔らかい背もたれに背中を預けて両足を投げ出して目を閉じた。ここは議会のビルで、しかも自分は赤で、更にフェイスの取る態度としては最低のものだったが、もう今更気に等していられない。
そう、例えば…。
例えばここに彼がいたら、きっと不機嫌そうに眉を寄せて「シン、ちゃんとしろ」と、そう言っただろう。
そうして自分は相変わらず、嫌そうな顔で「レイはうるさいなー」と、そう言いながらそれでも姿勢を正すのだろう。
ふいに瞼を閉じている筈の視界に金色の長い髪が翻った気がして、突かれたように目を見開いた。思わず浮かしかけた腰をそのままに息を呑む。
「………っ」
作品名:空と太陽を君に 作家名:ひわ子