東方無風伝その6
「げほっ」
と咳込む女。思っていたより衝撃は強く、涎が出たのか口元を拭う。
「……何をした」
「悪い、嘘を吐いた。ネタ切れじゃねぇや」
「何をした!」
「今起きたことをしたまで」
「何をしたと聞いているんだ!」
激昂する女。おぉ怖い怖いと調子に乗るのもいい加減にして、刀をしまう。能力しか効かないのなら、刀は出していても邪魔になるだけだからな。
地面を蹴り、距離を詰める女。どうやら先程までの遊びは止めて、本気を出したようで足が速い。対応に遅れるくらいに。
女が振った鉈。思っていた以上に早く距離を詰められた為に生じる焦りで、避ける事は叶わない。ので、反射で腕を払う。横薙ぎに振られた鉈を持つ手を、下から跳ね上げるように叩いた。
鉈は頭上を振り抜き去る。
今がチャンスと言わんばかりに蹴りを入れてみるが、残念ながらそれは今まで通りにノーダメージ。危ないので下がって距離を取ろうとすれば、女は詰めて鉈を振う。
「なぁ、今のはなんで、あんたの腕を弾けたんだ?」
「黙れ!」
何か特殊な条件があったとは思えない。推測にしか過ぎないが、彼女の精神状態にあったのではないだろうか。怒りで我を忘れ、能力を発動させるのを忘れた、とか。
それならば、色々と試してみる価値はある。
「やっぱり、あんたの能力はしょぼいもんだな。無敵かと思ったら穴があるじゃないか」
「……」
女が犬歯を剥きだす。どうやらボルテージが上がってきているようで、振られる鉈が大雑把なものになってきた。
歯軋り音まで聞こえてくる。どれ、もう一押ししてみるか。
「どうしたどうした。さっきから俺に掠りもしていないぞ? そんな調子じゃ百年経っても俺を殺せないぞ」
「黙れぇ!」
大きく振った鉈。
大きく後ろに跳び避ける。
「なんだ、殺すなんて、所詮口だけか」
荒々しく肩で息をする女。憎らしげに俺を見つめる瞳には強い殺気が籠っている。
「お前は……なんだ……」
「俺は俺だ。風間と名乗る自称人間」
「……もういい、黙れ。耳障りだ」
女は頭を冷やしたようで、言葉の荒々しさと瞳の殺気が消え去った。もう挑発しても意味はないだろう。
「私は、お前には勝てない」
女は悟ったように言う。
「だから、逃げさせてもらう」
女が握るスペルカードが発動された。