東方無風伝その6
目の前に聳える大きな門。今は大きく開かれて、好き勝手に人間が往ったり来たりと繰り返されている。一応、門番らしい男が数人いるが、彼等は見ているだけで何もしない。武器を持ち、退屈そうに辺りの人々を見ているだけだ。一見すればぼんくらに見えるが、それ程平和と言うことだろう。良い事に違いない。
少し様子を見てみると、人里であるに関わらずに妖怪も門を通っているのに気付く。門番は彼等に一瞥くれるだけで、特に何も言わずに通している。
此処は人間の為の里では無かったのか? 人里と聞いて、てっきり人間だけを受け入れるものだと思っていたが、どうやら違う様子だ。
往来は自由のようだ。だが、それでは門の意味はなんだろうか。
人間を襲う妖怪を中に入れて、まるで此処は、妖怪の為の里のようだ。
いや、それが有り得るか? 元々幻想郷自体が妖怪の為の世界。そんな場所に妖怪の居場所を作る必要はない。
妖怪を通す理由に考えられるのは、二つ。
一つは、ここは妖怪の餌場。
一つは、ここでは妖怪は暴れられない理由がある。
前者、だとも思うが、此処から門の中を窺えば後者が正しいような気がしてくる。
妖怪は親しげに人間と話し、人間は快闊に妖怪を店に誘う。妖怪はそれを楽しんでいるようだ。
「なぁ」
「あー?」
「どうして人里に妖怪が? 此処は人間の為の里では?」
こいつが俺を妖怪の元に導くとは思えない。たった一つきりの玩具を壊すような真似はしないはずだから。
「以前、誰かがお前さんに言わなかったか? この幻想郷は、人間と妖怪が共存する世界だと」
……確か魔理沙だったか、言っていたような気がする。
それが、答えだと言うのか。
それでは俺の眼に映る、人間と笑いながら喋る妖怪は、決して人間を襲わず、寧ろ人間に近い妖怪だと言うのだろうか。この人里にいる全ての妖怪が? 眼に映るだけで十匹近くはいそうだと言うのに?
「人里は幻想郷で最も栄えた街だ。喧騒を楽しむ為に妖怪が訪れるだけだ。なに、心配はいらない。妖怪は人里内では悪さは出来ない」
「何故言いきれる」
「そういう契約さ」
契約。人間と妖怪の間で契約が交わされているというのか。