東方無風伝その6
人里を特に目的も無くふらふらと歩いていて、解った事が一つある。
それは、幻想郷の人間は誰しもが、皆を信用しているということ。人間だろうと妖怪だろうと関わりなく、だ。それとも単に騒ぎ好きなのかね。
林檎を齧って思う。
人里を散歩していれば、適当な人間に声を掛けられる。一体何の用だと思えば、店の商品を押しつけるように売られるのだ。無駄な金の消費は抑えたく、それを断ろうともすれば、あまりにも強い押し売りに断ることは出来ずに買ってしまう。一応、それなりにオマケをつけてもらってはいるが。
どうにも、此処の人間共は活気があり、人情味が溢れている。まぁ、こういうのも悪くない。
「あんた、外来人だろう」
呼び止めてきた人間の中に、そう言ってくる者までいた。
「どうしてそれを」
「見ない顔っていやー、まぁ時折いるが、何となく、『匂い』で解るんだよ」
匂い、と言われたら納得してしまう。俺だって、あの女が同類だということは何となくの匂いで解ったのだから。
「まぁ、見ての通り幻想郷の人間はお人好しばかりだからね、精々皆に甘えると良いよ。皆が皆、他人を放っておけない連中だからね」
言うだけ言って、そいつは去った。
そう、幻想郷の連中はお人好しなんだと理解した。人間だけでなく、妖怪もだ。
人間と話していれば、其処に妖怪が割り入ってきたこともあった。その妖怪は人間と親しげに話して、それからして俺を見た。眼が合えば、微笑んで会釈までしてきた。妖怪でありながら人間に友好的なのだ。
それはきっとこの人里にいる妖怪全てに言えることだろう。そしてそれは、広い眼で見れば幻想郷全体に言えることなのではないだろうか。
林檎を齧ろうとして、芯しかないのに気付いた。
「ぬぅ」
渋い顔になって、放って捨てる。
さて、たらふく食った。そろそろあいつを呼び出して紅魔館とやらまで道案内させようかね。
そう思い、取り敢えず歩き出した直後のこと。
前方から何かがぶつかり、衝撃に負けて尻餅をついてしまった。