東方無風伝その6
適当な食堂で休憩がてら飯を食い、さてもう人里での用は済ませたと言う事で、いざ向かうは紅魔館。
人里を囲うように立てられた塀に沿って行けば、そのうちは俺が人里に入ってきた時と同じように門があるだろう。取り敢えずはそれを目指して歩く。
肌寒い冬と言えど、こうも陽が照っていると温かくなってきて食後の身体は眠気に襲われる。
何処かで日向ぼっこでもして寝ていたいと言う衝動に駆られるが、曲がりなりにも今は冬。木枯らしに吹かれて体調を悪くすること間違いないだろう。
「ふぁ……」とそれでも欠伸は漏れ出る。欠伸をすることで瞳から流れた涙を拭けば、眼を引く光景が其処にあった。
場所は何の変哲もない広場だが、その一角。子供達が半円状に集まって座っているではないか。その子供達で作られる半円の中心には、どこかで見た顔。
アリス・マーガトロイド。一カ月振りに見る顔だ。
アリスは子供達の中心で人形劇を演じていた。とても器用だ。あの腕を見れば、以前彼女が俺に見せた、数々の人形を見えない魔力の糸で操ってみせたあの光景。あれは本当にアリスが操っていたのだと信じさせられるな。
アリスの人形劇を見ているのは子供達が多いが、中には大人も混じっている。子供達の親なのか、単にアリスの人形劇に興味があるのか。
そんな大人達に混ざってアリスの人形劇を歓楽する。
彼女が演じる物語は、とある王国のお姫様が、悪い竜に攫われてしまい、格好良い王子様がお姫様を助ける為に旅に出ると言うものだ。
王子様は数々の苦難を乗り越えて、漸く竜と対峙する。王子様は竜に大人しく投降するように言うが、竜はそんなことに聞く耳持たず。そうして王子様と悪い竜の死闘が始まる。
王子様は負けそうになるが、お姫様の祈りで力を取り戻し、悪い竜を退治することが出来た。
そうして、王子様とお姫様の二人は、仲良く手を繋いで王国に戻りました、と、はっきり言ってしまえばよくある童話の一つにもなりそうもないお話。
それでも、アリスの操る人形の動きはリアリティに溢れ、臨場感と緊迫感、そして感動を誘うものだった。