東方無風伝その6
「お疲れ様」
人形劇が終り、片づけをするアリスにそう声を掛ける。
その彼女は、俺に一瞥くれただけで、黙々と人形の片づけを続けるだけだった。
冷たい奴だとは思っていたが、それだけだと寂しいものだね。
「はい」
呆れていれば、アリスは俺に手を差し伸べてくる。その手には飴が乗せられている。
「それはチケット代わりよ。貴方は買っていなかったでしょう?」
「へぇ、飴で代金を取っていたわけか」
金を取り出し、飴の代わりにアリスの手に乗せる。
何十年前だかの日本みたいだな。七、八十年前だったか? あれは人形劇ではなく紙芝居が主流だったが。
「久し振りね、風間」
「大体一カ月振りだな、アリス」
相も変わらず目線は人形に注がれているが、意外にもアリスは俺の名を呼んだ。アリスのことだから、俺のことなんて真っ白に忘れているのものだと思っていたのだが。
「意外だな、アリスが俺を覚えているなんて」
「私も吃驚よ。きっと魔理沙がうちに来ると、時々貴方のことを話題にしていたわ。だからかしら」
「へぇ」
あの魔理沙が俺のことを、ねぇ。……良い事は言ってないだろうな、絶対。
「俺の事はなんと」
「一丁前に刀なんて担いでも、全く似合っていないとか、あんな修業しても、空から弾幕を撃てば圧勝とか、あんな貧弱な身体でも鍛えても、意味なんかないとかよ。大体は貴方の想像通りだと思うわ」
「……そうかい」
流石アリス、大当たりだぜ。少しだけ自信ってものが砕けそうになったが、アリスさんのお陰で立ち直れそうだぜ。なんて思ってないですとも。ええ初めから砕けそうになんてなっていませんとも。
「何泣いているのよ」
「……雨だ」
おかしいな、一体何時の間に雨が降ってきたんだ。全く、今日の雨はなんだかしょっぱいぜ。へへっ。
「用が無いなら、もう帰ってもいいかしら」
「ああ、ただ挨拶しに来ただけだから。御気にせず」
「そう」
片付けは終ったようで、人形を詰めたバッグを片手に立ち上がるアリス。
さて、では俺も歩き出すとしましょうか、紅魔館に向けて。