東方無風伝その6
それから早一時間歩き続けた。相も変わらず狭い道は、周りの木々に圧迫されているようで歩いているだけで何処か息苦しさを感じた。それに加わり、延々と歩き続けたことにより膨らみ続ける疲労感。何かおかしいと感じざるを得ない雰囲気。と言うか、その懐疑心が湧き立つのが遅すぎたのではとも思えてくる。
ポジティブに考えるのならば、今まで妖怪にも獣にも襲われなくて幸運だったと言う事くらいか。
「なぁ」
「あ?」
「道はこっちで合っているのか?」
「お前の考えでは、そうなのだろう」
最終的に判断して行動に移したのは確かに俺だ。だが、それは間違っていたのではないかと思えてくる。
「因みに、北の方に進んでいたら、その先に何が有ったんだ?」
「妖精達の棲家かな。妖精達は人里に遊びに来ることが多いからな。それで人里までへの道が出来たんだ」
「成る程」
妖精共の棲家に通じる道だったと聞いて脳裏をかすめるのはあの氷精。もしもあの湖が妖精の棲家で、俺が其処に立ち入ったことであの氷精に襲われたのならば? もしそうなら、俺が今進んでいるこの道は間違っているのではないだろうか。
「……」
いやそんなはずは無い。と信じて歩みを進ませようとするが、ふと顔を上げて前を見てみれば、其処には気分を沈ませる光景があった。
「……ワットイズディス?」
「オー、ワタシニホンゴシカワカリマセーン」
「黙れ似非(えせ)日本人」
今起きた事を有りのままに話すぜ! 細長い道を延々と歩いていたら、眼の前に石階段が現れた! 紅魔館とか白玉楼とか、そんなちゃちなもんじゃ断じてねぇ。もっと恐ろしい、幻想郷の片鱗を味わったぜ。
などと何故か頭の中に浮かんだ、金髪の男の科白をうろ覚えで思い出す。
「これは……」
と呟きつつ、その石階段に足を掛ける。
「頑張れー」
「黙れ」
疲弊してきた身体でこの階段を上るのは辛いものがあるだろう。
それでも、俺は上る事にはした。道を間違えたと確信を持ちながら、前に進む。