東方無風伝その6
上がれば其処には、見覚えのある大きな鳥居。頭が鳥居と水平の位置に来るまで上れば、漸く鳥居の向こう側、博霊神社の全貌を拝む事が出来る。
一カ月の博霊神社。相も変わらず寂れた場所だ。
誰も居ない。いても巫女である霊夢と、同居している萃香くらいなものだろうと思っていたが、意外にも他に人はいた。
賽銭箱に座り酒を呑む呑んだくれの鬼っ子と、箒を手に持った守銭奴な巫女と、そしてカメラを手に持った見知らぬ少女がいた。
「あら風間、久しぶりね」
俺に気付いた霊夢がそう声を掛ける。その声に釣られて、カメラを持った少女が振りむき俺に気付く。
「あやややや。この神社に参拝客とは。これはスクープの予感」
等と言ってカメラを構える。
「あんたが好きな外来人よ」
「あや?」
首を傾げる少女。それは困りましたねぇ、との呟き。実際その表情は困っているようだった。
「何が困ったって言うのよ」
「いえ、もう外来人はいらないんですよ」
少女は言う。
「外来人は幻想郷に余る程に増えました。初めのうちは、それはスクープですよ。そりゃ私だって喜び勇んで取材しますよ。しかし今では外来人の価値は薄い」
少女はまるで探偵の推理でもひけらかすように、わざと大袈裟な身振りを交えて言う。
両手を広げ、腹を膨らませた野獣のような眼付で。
「貴方は出遅れたのですよ。外来人として。だから、私の取材対象にはなり得ない」
「そうかい」
と一蹴。そんな俺の態度に少女は一瞬訝しんだ表情を見せるが、直ぐに笑顔に戻る。
手に持ったカメラに、先程からスクープだの取材だのと。どうやらこの少女はただのパパラッチ娘のようだ。
「あやややや。随分とつまらなさそうな外来人さんですねぇ」
そう言っときながら、彼女の眼は獲物を見る眼になっている。先程とは一転している。
「悪いな、つまらない人間で。生憎と俺は面白そうなネタなんて一つも持っていないんだ」
「ダウト」
俺を指差しながら言う少女。人に指を差すんじゃないと言ってやりたいところだが、少女の雰囲気がそうさせない。
今は、この少女がこの場を支配している。彼女に逆らうことは出来ない。そう思わせる雰囲気だった。