東方無風伝その6
「流石は幻想郷と言ったところですかね」
勿体ぶった口調で言う少女。一体この少女は何を知っていると言うのだろうか。
「貴方のような存在が、まさかこうして現れるとは、一生に一度のチャンスと言うべきか、不幸と言うべきか……」
それで漸くこの少女が何を言いたいのか理解した。
この少女は、俺の存在を理解したのだ。俺の本来の形。この肉体の器。存在。
八雲紫ですら解り得なかったことを、この少女は俺を見ただけで理解していたのだ。
「どうですか、人間になったご感想は」
「……天狗風情が」
「あや? 何か気分でも害することを言いましたかねぇ」
妖怪である少女は惚けた調子で言う。
ただの天狗だろうが、力を付けた大天狗であろうが、本来ならば俺の正体なぞ解らないはず。今までのように。
だがこの少女はどうだ。
見たところ、力はそれなりにある天狗のようだが、妖怪に変わりは無い。俺の正体は、近い存在でしか解り得ない。その筈だ。
「どうして解った」
「それが気になって仕方が無いようですね。怖いのですか? 自分の正体がバラされるのが」
「そんなこと、どうだっていい。ただ、何故解った気になっただけだ」
「再びダウト。貴方は解りやすい人ですねぇ」
ダウトと少女は言うが、俺は嘘を言っていない。
「俺は嘘なんて言ってないさ」
「いいえ。それは貴方が無意識に自覚していて、それ故に貴方は認めたくないだけなのですよ」
少女の黒い瞳に映る黒い男の姿。それを見ると、何だか引き込まれそうで怖くなる。
黒い瞳は決してブレることなく、真っ直ぐに俺を見つめてくる。彼女は絶対の確信を持っているのだ。
この少女は、何を何処まで見抜いていると言うのだ。
「貴方は解りやすい人です。こうして少し話しているだけで、貴方が何を考え、何を思い、何をしたいのか、ありありと解ってきます」
「……」
「あのさぁ、文の言う通り、風間が解りやすい男だってのは解るのよ」
突然、横から口を出すのは今まで黙って傍観していた霊夢。
「風間の正体なんて私には解らないけど、妖怪じゃないんでしょ? だったらそれに問題とかってあるわけ?」
「問題なんてありませんよ。ただ」
「なら其処まで、彼に拘らなくても良いんじゃないの?」
霊夢の言葉は反論出来るものではない。それを解っていて霊夢は言っているのだ。