東方無風伝その6
「彼はこの上ないスクープになり得る人物ですが……」
横目で俺を見る少女。
「良いでしょう。霊夢さんが其処まで言うのなら、私は引き下がりましょう」
諦めたように言う。だけどその顔には意地の悪そうな笑みが浮かべられているままだった。
「何より、貴方の反感を買えば、下手すれば幻想郷が滅んでしまいますからねぇ」
「……」
まぁ、やろうと思えば出来なくはないが。一度実行に移してしまえば、八雲紫だろうとそれは止められない。
だが俺は幻想郷を気に入っている。そんなことをする事は無いだろう。
「ねぇ、其処の天狗」
「御呼びでしょうか? 萃香さん」
少女を呼ぶのは今まで離れたところで酒を呑んでいた萃香。
地獄耳と言うべきか、この距離で俺達の会話が聞こえていたとは。流石妖怪。
「あんたが自慢したいのは解ったけどさ、それであんたはどうしたいんだい」
「自慢? 私がですか?」
「そうさ。あんたが執拗に風間の情報を掘ろうとしているのも、新聞にする為だろ。立派なスクープじゃないか。私でも、私の友人でも解り得なかった風間の正体を知れたのだがら」
「ええ、大スクープです。文句は、そうですねぇ。鬼の眼も欺く外来人現れる! とかどうでしょう」
鬼の眼も欺くねぇ。
欺けてなんかいないのに、そんな文句で新聞を書かれては困る。萃香は、そしてその友人は俺が人間でないと言う事だけは解っていた。本当に欺くと言うのならば、人間だと信じて疑わせないさ。
しかし、萃香の友人ねぇ。一体どれだけいるのだろうか。俺の正体に疑問を持ち、その正体を暴こうとしている奴は。
「そうら、やっぱりあんたは自慢したいだけだ。この私すらも出し抜いたと思っているんだろう」
「正直に言えば、勿論そうです」
「天狗のそういうところが、やっぱり好きになれないね。欺瞞に満ちたあくどい顔」
「あやややや。今のところ私は正直に話しているつもりですがねぇ」
「風間の正体が解った。それは本当のことだろうね。でも、肝心なところが解っていないんじゃないかい?」
「……はて、天下を取る鬼はどうお考えなのでしょうか?」
「原因と理由が解っていないはずだ。だからあんたは風間から情報を絞り取ろうとしている」
「……」
少女の答えは沈黙。それは萃香の言う事は図星だと言っている事と同義だった。