東方無風伝その6
「記事は真実で象(かたど)らないといけませんからねぇ。不正確で不確かな情報を流すわけにはいかないのです」
「つまり、あんたは風間の正体が解っていても、自信と確信が無いわけだ」
少女は俺に鎌をかけ、正確な情報を聞き出したうえでそれを新聞の記事にしようとしていたのだ。
「鬼の貴方は、どうして其処まで人間に肩入れをするのですか?」
「そいつの正体は、今のところ誰にも秘密なのさ。バラされたら、色々と困る。かも知れない。そいつの正体を私達がはっきりとさせない限りは、そいつに手出しすることは許されない」
「私達? それは鬼の一族全員まとめてのことですか? それとも、何かの組織?」
「秘密さ」
萃香は、あくまでも俺の本質を見抜けていない。だが、いやだからこそ、それが彼女達にとって有益な存在なのかもしれないと考えているようだ。達、とは一体何なのか知らないがな。
お生憎様、と言ってやりたいね。俺を利用したところで、大したことなんて出来ないだろうに。
結局のところ、俺は幻想郷にとって未知であり、それ故に誰かに独占されようと言う状況にあるようだ。
八雲紫の未知。この少女のスクープ。萃香達の独占。
何がそんなに魅力的なのかねぇ。
「風間、一つ聞いても良いかしら」
「どうした霊夢」
「あんたの正体なんざどうでもいいし、あんたがどうなろうが勝手よ。あんたは人間なんだから」
「人間ならば、良いのか?」
「人間の力なんて高が知れるもの。でも、あんたは違うみたいだし」
霊夢は一拍入れて言う。
「文がさっき言ってわね。あんたは幻想郷を滅ぼせると」
「ああ、言っていたな」
「あんたはその気あるの?」
霊夢の眼を見る。
澄んだ瞳は力強いものがある。それが何かと言えば、覚悟だろう。
いざともなれば、人間だろうとも殺すという覚悟。
「無いよ。俺は幻想郷を気に入っているから」
「そう、なら良いわ」
霊夢は俺から目線を言い争う萃香と少女に変える。
そんな霊夢の態度に少しの安堵。
霊夢は俺を信用した。
俺は何時でも幻想郷を壊すことが出来る危険分子。そうだと解って殺さないのは、霊夢は俺がそんなことをする気はないと信用したからだ。
先の問答はその確認だろう。
この先俺が幻想郷で生きるのに、霊夢のように信頼してくれるモノばかりだろうか。
もしかしたら、俺は命を狙われることになるかもしれないな。