東方無風伝その6
「吸血鬼? そう言えばそんなのが幻想郷にいると霊夢が言っていたな」
「あそこの吸血鬼は食料に困っていないはずだから、殺されることはないだろうよ」
吸血鬼の食料となる、やっぱりそれは、人間の血。それに困っていないとなると……。
「何を暗い顔をしているんだか」
「やっぱり、それだけの人間が犠牲になっていると思うとな」
「馬鹿言うな。幻想郷は元からそう言うところさ。妖怪が人間を喰う。其処になんの問題があると言うんだい?」
「俺が八つ目鰻を喰うのと同じくらいに無い」
この八つ目鰻の立場を俺達人間の立場に置き換えると、俺達人間が妖怪なのだから。
「ま、あんたは外来人だと言うし、何かと良くしてくれることだろうよ」
「外来人と言うステータスは、やっぱり特殊なものなのか?」
「まぁ、珍しいっつーだけだね。それでも、皆外来人の世話を焼きたがるんだよ。なんでだろうね、何か惹かれるものでもあるみたいだよ」
「そう言う小町はどうだ。俺に惹かれるものがあるかい?」
「別段、無いねぇ」
「そいつは残念」
「でも、あんたのことは気に掛るね」
「なんだ、やっぱり惹かれているのではないか」
「違うよ、外来人としてなんかじゃない。人としてのあんたが気になるんだよ」
「どういう意味で?」
「あんたは、人間のくせして人間じゃない。あんた自身がそうであることを望んでいるみたいだ。面白い。あんたのそういうところを気に入ってるんだよ」
「ただ、人間を客観的に見ているだけだ」
「それを、大抵の人間はしようとしない。それが解っていて、あんたは人間に絶望し、それでいて愛している」
「俺自身、人間なんだ。人間を否定することは、俺を否定する事に繋がる」
大嘘だ。俺は人間ではない。だから人間を否定することは可能なはずだ。小町を否定しないのは、小町の言う事が何一つとして間違っていないからだ。
俺は人間と共に居過ぎた。彼等に感情移入して止まない、止めることなんて出来ないのだ。
「あんたがそう言うのなら、それで良いんだろうね」
何処か納得のいかないが仕方がないと言った様子で立ち上がる小町。
「帰るのか?」
「仕事をさぼってきてるんでね。上司にばれる前に帰らなきゃ」
死神の上司ねぇ。俺の呟きが耳に入ったようで、小町は振り返らずに言った。
「地獄の裁判官、閻魔様さ」
そうして小町は、夜の闇に紛れて消えた。