東方無風伝その6
肉体的な力が使えないならば、精神的な力を使えばいい。
「……ぬ」
彼女の周りを風が渦巻く。それに巻かれる様に、落ち葉がざわめく。
関係無いと言わんばかりに鉈を振うが、それは風間に軽々と避けられる。本当に面倒な相手だ、と彼女が思った時に、それは発現した。
「きゃっ!」
彼女の周りを落ち葉が舞う。彼女を中心とした旋毛風が落ち葉を舞い上げ、彼女の視界を隠しているのだ。
「ふぅ」
と溜め息を一つ吐く。彼の能力は風を操る程度の能力。この程度なら簡単に出来る。と言っても、彼の本分は剣にある。これは時間稼ぎにしかならない。
刀を抜いて、彼女を見る。
相も変わらず木の葉に覆い尽くされた彼女。だが、彼はその姿を見て眼を見開いた。
彼女の腕が、風の中から突き出されていた。その手に一枚のカードを握って。
宣言の声は、木の葉の擦れる音で聞こえず、発動された。
直後に、身体が吹き飛ぶような、ばらばらに引き裂かれるような、肉体も意識も消滅するような、痛みも無く、感じる瞬間もなく自分は『消え去った』のではないかと錯覚した。
跳んだ。スペルカードを認識した同時に反射でそれを行ったのが幸い。
彼女が宣言すれば、光となって分解された力は巨大なエネルギーとして顕現され、それは人間二人は悠に飲み込めるのではと言う程に大きなレーザーとなった。
正に皮一枚と言ったところを飛んだレーザー。彼は自分が死んだと錯覚しても無理は無い。だが彼は直ぐ様正気に戻る。
何が起きたか。辺りの状況を見て、そして今起きた現象を思い出し分析する。
彼女がスペルカードを発動させた。その直後、レーザーが彼を目掛けて飛んできた。それを彼はぎりぎりのところで跳んで避けた。そう言う事だ。
彼は直ぐ様眼を動かし、彼女を探す。あのレーザーにより、彼が生んだ風は消し飛ばされたようだ。拘束していたはずの彼女はその場にいなかった。
「……痛かっただろうに」
「いや、私には意味なんて無かったよ」
彼の呟きの返事が背後から聞こえた。
だ、と身を捻りながらの跳躍。鉈を反らした上半身を舐めるように振り抜かれる。