永遠に失われしもの 第4章
「こうしていると、
何だか情事の後のようですね」
つい先ほどまで為すがままになっていた
セバスチャンは、気だるそうな表情で、
乱れた寝台の純白の絹のシーツの皺を見つめている。
血に濡れた冷たい首筋にすがるように、
覆いかぶさるシエルは、顔をあげた
「気色の悪いことを言うな!」
「そうですか?
随分ご堪能されていたご様子ですが」
荒々しい呼吸の余韻で
未だ速すぎる心臓の鼓動が、
直にセバスチャンに伝わってくる。
セバスチャンの手が緩慢に動き、
その細い指がシエルの前髪を触り、
かきわけて、シエルの額を撫でる。
あらわにされたシエルの両の瞳は、
真紅のルビーよりなお紅い。
「喰らい足りない」
その瞳をたぎらせて、シエルは低い声で唸るようにつぶやいた。
「でしょうね--
貴方が女性であれば
私ももうちょっと楽しめるのですが」
「ふ・・ふざけるな!
僕だって、誰が好き好んで・・」
セバスチャンは冷たい一瞥を向けた。
「私がお願いした覚えもありませんが」
しばらく二人の間に
凍りついた沈黙が続いた後、
シエルは聞こえるか聞こえないかの
微かな声で言った。
「そうだな・・・」
セバスチャンは、その指を
シエルの額から頬になでおろし、
優雅で狡猾な微笑を浮かべた。
「ぼっちゃんが、
飢えを紛らわせるためとはいえ
荒れ狂ったように私を求める、
その無様な姿を眺めるのは
とても愉快です」
シエルは怒りに満ちて
はき捨てるように言った。
「この・・・悪魔が!」
「ええ、貴方も」
作品名:永遠に失われしもの 第4章 作家名:くろ