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【にょたりあ】 恋の前のその前

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ハンガリーの膝の上に座らされる格好になったユールヒェンは、彼の声に混じった苦痛を感じて暴れるのをやめた。

「・・・・話ってなんだよ・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」

急におとなしくなったユールヒェンを見て、ハンガリーはやっと胸から手を離して、両方の腕を彼女の体にまわす。

「・・・・・・・・・・・俺は・・・・。」

言い淀むハンガリーの腕に、ユールヒェンはそっと自分の手を置く。

(こうしてやれば、こいつはいつも話し始めるんだった・・・。)

「・・・・俺な・・・・・・オーストリアさんと戦うことになった・・・・。」
「・・・・・・はっ?!」
「・・・だから・・・オ―ストリアさんと、俺が戦うんだ。」
「えっ?ちょいまて?!どういうこと?!お前ら、けんかでもしたのか?!」
「・・・・これから、けんかするんだ・・・。」
「待て待て・・・・。私にわかるように説明しろよ!」
「・・・・俺んちがトルコの雌犬にやられてから、俺んちの上司はずっとオ―ストリアさんちの上司だったろ。」
「ああ・・・・・そう・・・そうだった・・・・・。」
「・・・それ以来、俺のうちはオ―ストリアさんちの支配下に置かれてた。」
「・・・・・・・・。」
「でもよ、俺のうちで。ようやく・・こんな言い方してなんだけどよ・・・。
俺のうちでオーストリアさんちから独立しようって機運が高まってんだ。」
「お前んち・・・ずっとお嬢ちゃんちと仲良かったじゃないか・・・。」
「ああ・・・・見かけはな。でもずっと中ではくすぶってた・・・・。オーストリアさんが、俺のうちの宗主であるのを喜ばない民はいつの時代でも居たんだ・・・。」
「・・・・それがどうして、こんな急に・・?」

ユールヒェンは思わず後ろを向いてハンガリーの顔を見た。
静かな、しかし、苦痛に満ちた表情だった。


「急に・・・ってわけじゃねえんだ。あれだけ勢力を誇ってたトルコの女郎もそうだけどよ。オーストリアさんも、弱ってきてる。いままで、拡大につぐ拡大してきたけど・・・彼女だけでは支えきれなくなってる。」
「・・・お嬢ちゃんが支配してきた国々が、反旗を翻してきたってこと・・・。」
「ああ。俺だけじゃない・・・・ボヘミアもロンバルディアも・・ヴェネチアちゃんもだ・・・。今まで力で押さえつけられてたけど・・今、オーストリアさんは弱ってる。」
「はっ!今まで散々、えらそうにしてきたから!私だって、いつまでもお嬢ちゃんにやられてばかりでなんかいない!そのための力だってつけてきたのよ!」
「・・・・・お前の力は知ってるよ・・・・。お前が、のしてきた時、戦ったのは、この俺だろうが。思えば、あの頃からオーストリアさんの内部で変化が起きてたんだな・・・ゆっくりでわかりづらかったけどよ。」
「それで、お前がお嬢ちゃんと戦うってのは?」
「・・・2月にフランスで暴動が起きたろ?あれの影響で俺のうちのコシュートって奴がぺシュトで蜂起してよ・・・。」
「ああ・・・私のうちでもベルリンで暴動が起きた・・・・。お嬢ちゃんちではメッテルニヒが追い出されたよな・・・。」
「それからオーストリアさんに対する蜂起がいっせいに各国で起きてる・・・。今もどこかで戦闘が起きてる・・・・・。俺んちはオーストリアさんちに支配されてから初めての自治政府が出来た・・・・だけどよ・・・6月にフランスが失敗してから・・・オーストリアさんちは俺のうちに攻めてきた・・・・。」
「一度は自治政府を認めたのにか?」
「ああ・・・・そうせざるをえなかったんだろう・・・・。だが俺の国民だって黙っちゃいないさ。今、デブレツェンに集結してる。」
「そこへお前は行くの?よくお嬢ちゃんが許したな!」
「・・・・・最初は行くつもりはなかった・・・・俺にはオ―ストリアさんを守る使命がある・・・・。」

ハンガリーのその口調に、ユールヒェンはむっとして黙り込んだ。

(ああ!いつだって、こいつはお嬢ちゃんの騎士きどりでいやがるんだ!)

むくれたユールヒェンの顔をみて、ハンガリーは微かに笑った。

「・・聞けよ。俺は忘れてたんだ・・・・ずっとずっと・・・・。あまりにも長い間支配されすぎて、忘れてた・・・・。」
「何を?」
「・・・・・俺は「国」だって事。」
「はあ?だってお前・・・・・?私たちが「国」であることを忘れられるわけないだろ?」
「・・まあ、聞けよ・・・。俺はあまりにもずっと、オ―ストリアさんを守らなきゃいけないって思いこんでてよ・・・。俺の民・・・・国民もずっとこの支配を受け入れてて、忘れてた・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「俺の誇り・・・・。俺の国・・・俺の・・・マジャールとしての誇り・・・。
俺はゲルマン人じゃねえ。マジャールの、イシュトヴァ―ンの末裔だ!」

ハンガリーは抱きかかえていたユールヒェンを、自分と向きあうように抱き直すと、まっすぐに視線を合わせた。

「俺は、マジャールだ!!「ハンガリー」だ!俺は、一つの「国」だ!」

その真剣なまなざしに、ユールヒェンは息を飲む。

「コシュートから連絡があった。デブレツェンに来てほしいと。」

ユールヒェンはハンガリーを見つめ返した。

「お前は行くの?お嬢ちゃんと戦うのを承知で?」

「・・・ああ・・・。決めたんだ・・・・。俺は、オ―ストリアさんに反旗を翻す。
俺の民と一緒に行く。」
「・・・お嬢ちゃんがお前にそんなことを許すと思えないんだけど・・・。」

ふっとハンガリーが笑った。
それはユールヒェンの胸を締め付けるような笑顔で・・・・・。

「俺に内緒で、クロアチアから軍隊を呼んでたんだよ・・・・・。」

かちっと何かがユールヒェンの胸につきささった。
ハンガリーがまっすぐにユールヒェンを見つめていた視線をそらす。

「俺がオーストリアさんにひざまついている間に、オーストリアさんは俺の民には軍隊を差し向けてた・・・。」
「だってそれは・・!!お嬢ちゃんが知ってたかどうか!!そんなのわからないじゃない!お嬢ちゃんが知ってたら、絶対にお前に話してただろう!?」
「お前がオーストリアさんをかばうと変な気がするな・・・。」

何故、こんなにもオーストリアをかばうのか、自分でもわからないまま、ユールヒェンは叫んだ。

「お前は言ったんだろ!貴女を守りますって、いつもみたいに!今もそうすりゃいいじゃない!国民の一部なんだろ?お嬢ちゃんと戦うって言ってるのは!」
「気をつかわなくていいぜ。ユールヒェン。わかってるんだ。俺も。オーストリアさんも。」
「・・そんな・・・・・だって!!」
「俺達は「国」だ。国民の意志に従う。彼女も同じ。それだけだ。」
「だって・・・・ずっと・・・・ずっと・・・お前たちは・・・!!」

言葉が見つからない。

「ああ。ずっと一緒だった・・・・。オーストリアさんの上司が俺の上司になってからな。それでも、俺とオ―ストリアさんは、元々「別」の「国」だ。支配される前は「ずっと」戦ってた。今回の蜂起で、やっとそれがわかっただけなんだ・・・・・・。」
「・・・・お前・・・・お前・・・それでいいのか?!ほんとにいいのかよ!!