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【にょたりあ】 恋の前のその前

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つらいんだろ?!お嬢ちゃんと戦うのが!ずっとお前ら仲良かったじゃないか!
私はぶん殴るくせに、お嬢ちゃんには何されたって、かばって助けてたじゃない!」

ハンガリーの顔がゆがんだ。
「・・・・・なあ・・・・ユールヒェン・・・いや・・プロイセン・・・。」

ハンガリーはユールヒェンの顔を両手でつかんだ。

「俺は・・・・・俺は負けるだろう・・・。」
「・・・・負け・・・・る?」
「ああ・・・・・。この蜂起で一時的に、独立した形にはなった・・・・。だけど、オーストリアの皇帝がハンガリーをこのままでおくはずがない。なんとかして、俺を押さえつけないと、他の国も、支配しているすべての「国」が反オ―ストリアで立ち上がる。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「知ってるんだ・・・・聞いちまったんだ・・・・。オ―ストリアの皇帝がロシアに援助を求めたのをよ。」
「ロシアを?!なんてことを!自力で出来ないからって・・・よりによってロシア?!」
「・・・・ロシアにどんな譲歩をしたって、支配した国を手放す気なんてオーストリア皇帝にはねえんだ。フランスでも、お前のうちでも暴動はあっさり収まったろ?」
「ええ・・・・。でもまだ私のところはもめてるけど・・・。」
「うちみたいな独立の機運は、燃え上がったらそこらじゅうに飛び火する・・・。オ―ストリアさんちの支配している「国」は、結局は全部ゲルマン人じゃねえんだ・・・。彼女が支配しているのは、別の民族・・・別の民なんだよ・・・一度燃え上がったら妥協じゃすまされねえ・・・。」

異民族の支配、カトリックの強制。差別。徹底した税と義務の差。
大きな帝国の中に飲み込まれていた異人種。
支配を受けている国同士ですら、人種や宗教が違うのだ。
反旗を翻した国々。
それらは一緒に共闘することはない。
そこにオ―ストリアは勝機をみたのか。


「俺は、たぶん・・・負ける・・・。」
「ハンガリー!!」
「負けて・・・・どうするのかな・・・。また、のこのことウィーンの宮廷に舞い戻るのか・・・それとも・・・・ブダかぺシュトの家に閉じ込められるのか・・・・・。」
「・・・・・・・戦うなよ!!わかってるんでしょ?!お前んちが負けるって!!ロシアが来たら、勝てるわけないじゃないの!それなのに、行くなんて馬鹿だ!」
「俺は馬鹿なんだ・・・ユールヒェン・・・。」
「ハンガリー!!」
「俺はよ・・・・・ずっとわかってなかった・・・・。」

ハンガリーは、ユールヒェンの唇に、そっとキスをした。

「・・・っ!!」

「俺は・・・お前がどんな気持ちでいるかなんて考えたこともなかった・・・・・!」

真っ赤になって逃げようとするユールヒェンの顔を両手でおさえながら、ハンガリーはゆっくりと、もう一度、キスをした。
合わさったハンガリーの唇の下で、ユールヒェンの唇がわなないた。

「お前をからかって・・・お前が「土地」も「民」も持ってねえって言い続けた・・。」
「・・・そ、そんな昔の事!!」

真っ赤になりながらユールヒェンはハンガリーに怒鳴る。

「俺はやっとわかったんだ・・・あの時のお前の悔しさがよ・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」

胸の鼓動がうるさくて、息が荒くなって、顔から火が出そうに熱い・・・・。
ハンガリーの手から逃れようと思うのだが、体が動かない・・・・・。

「これが俺への罰なら、いくらでも受ける。」
「わ、私は・・・!お前を罰したいなんて思ってない!!ただ、お前が犬死にしに行くなんて・・・・・駄目だ!!」

ハンガリーはユールヒェンを抱きしめた。

「俺は行くよ・・・・ユールヒェン・・・・。俺はオーストリアさんと戦う。
ロシアと戦うわけじゃねえ。あくまでオーストリアさんと戦うんだ・・・。
俺の民が・・・・何百年だ? 支配されてから初めて・・初めて「俺」のために起ってくれたんだ。俺が行かないなんて・・・・そんなのおかしいだろ?」
「お前・・お前とオ―ストリアが戦う方がおかしいだろうが!!お前・・・オーストリアのお嬢ちゃんが好きなんだろ!?いっつも一緒にいたじゃないか!!」
「俺が愛してるのはお前だ。ユールヒェン。」
「な、なに馬鹿なこと言ってやがる!!」
「これは馬鹿な事じゃねえ。俺が、愛してるのは、お前だ。」

(・・・・何・・・言ってるんだ・・・・?こいつは・・・・・。)

ユールヒェンは大混乱を起こしていた。
体じゅうから火が出そうだ。

(こいつにこんな事を言われるなんて!真剣な男なんてどうやって扱えばいいの?
親父様!こいつの腕から逃げたいのに、逃げられない!)


「今までだって、何度も言ってきてるはずだ。俺が、やりてえのはお前だ。」
「そ、そ、そう言ってたんじゃないの!いっつも「やりたい」、「やりたい」って!
「愛してる」なんてお前から聞いた事ない!!」
「そうだったか?じゃ、今言った。」
「だから・・・・!!そうじゃなくて!!」
「人が告白してんだから、素直に聞けよ。」
「なんだよ!いっつもお嬢ちゃんとくっついてじゃない!お前が守るのはお嬢ちゃんだけじゃない!」
「守ってたさ・・・。守りたいって思ったからな。でも彼女とやりたいと思った事はない。」
「・・・・なんでお前はすぐに「やりたい」なんだ!もうちょっと言葉を選べよ!」
「素直にやりてえし、愛してるって言って、何が悪いんだ!俺は気取ったウィーンの連中とは違う!」
「恥ずかしいでしょうが!もうちょっと言葉を選べって言ってるのよ!」
「なんでお前に言葉を選ばなきゃなんねえんだ?!俺はお前にはいつも率直に話してる。
思ったことを正直に言ってるんだろう!」
「だから、それが恥ずかしいのよ!!」
「愛してる!やりてえ!愛してるからやりてえ!!俺は恥ずかしくない!」
「私が恥ずかしい!!」
「で?お前は俺をどう思ってるんだよ?」
「恥ずかしい!!このスケベ野郎が!!」
「俺は愛してる。お前は俺を少しでも好きなのか?」
「わーーーー!!いきなり聞くな!!恥ずかしいって言ってるだろう!!」
「今、聞かないでいつ聞くんだ?おい、俺は時間がねえんだ。さっさと答えろよ。」
「だ、だから・・・・こ答えろって・・・・・・なんでそんなに偉そうなんだよ!!」
「答えねえのか?仕方ねえな。」
「ぎゃあ!」

ハンガリーはユールヒェンを軽々と抱えると、階段を上りはじめた。

「お、降ろせ!」
「じたばたするな。お前の大王様のとこへ行くんだよ。」
「親父様のところ?!いいから降ろせ!自分で歩く!!」
「ばーか。誰が降ろすかよ。俺が抱いてたい時はずっとこのまま・・・ええいおとなしくしろ!」
「離せ!降ろせ!親父様の前で、男なんかに抱かれてるなんて・・!!」
「あー、もう大王様の前だぜ。」

ユールヒェンがあわてて前を見る。
サン・スーシ宮殿のこじんまりとした建物の横の小さな石碑が目に入る。
暴れるユールヒェンを降ろすと、ハンガリーは石碑を見つめる。

「あの方の棺はまだベルリンの教会にあるんだろ?」
「私が・・・ここに親父様の髪を入れたんだよ・・・。親父様の遺言だったから・・ここに葬ってくれって・・・・。」