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【にょたりあ】 恋の前のその前

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「大王たる者をこんな僻地の小さな宮殿なんぞに葬れない・・・か。後継者どもとしては。」
「そうよ・・・・。だからせめて愛犬たちの隣で・・・髪だけでも・・・。」

ハンガリーは大王の仮の墓の前にひざまづいた。
ユールヒェンは、その小さな墓に、花が供えられているのに気がついた。

「これ・・・・この花・・お前が?」
「まあな・・・・。俺もここに来るのは久しぶりだし、大王陛下が亡くなられてからは初めてだしな。」
「・・・・・・ありがとう・・・親父様に・・・・私何も持ってこなかったんだ・・・。」

ユールヒェンは、大王の仮の墓に手を触れた。
愛おしそうに石碑をなでるユールヒェンを見て、ハンガリーは微かに胸の痛みを感じた。

「・・・・俺はお前に聞きたい。」
「なに?」
「・・・・・お前・・・・お前はその・・・・・大王様と恋人だったのか?!」

とたんにユールヒェンが立ち上がって吠えた。

「なんてこと言いやがる!!このくっそハンガリーが!!私と親父様はそんな関係じゃない!!」
「じゃあ、なんだ?親子?それとも「国」と国王?それだけじゃねえだろ?お前達は。」
「うるさい!!お前も、私と親父様がいかがわしい関係だと思ってたのか!!フリッツ親父様は、小さい時から私のかけがえのない「王」だったんだ!親父様を侮辱するのは絶対に許さない!!」
「別に侮辱なんてしてねえ。ただ、大王様は王妃様を遠ざけても、お前とはいつも一緒にいた。大王様の恋人がお前だってうわさはいつだってあったんだ。」
「フリッツ親父様と私は恋人じゃない!そんな薄っぺらな関係じゃない!」
「恋人は薄っぺらなのか・・・・お前にとって・・・・。」
「なによ!!そういうことを聞いてるんじゃないでしょう!!私はフリッツ親父様にとって、大事な「国」で、そう・・・いっつも「私の娘」って!!親父様は私の事を「最も愛する娘」って言ってくれてたのよ!!」
「娘・・・・。」
「そうよ!!私の髪がまだ短くて、男の格好してたのに、親父様は私を「娘」って言って何よりも大事にしてくれた!何もかも与えてくれた!!自分の身を削ってまで私のために尽くしてくれた!!それを・・・!!」

激高するユールヒェン。
怒りのあまり、彼女は腰の剣を引き抜いていた。

ハンガリーは心の底でほっとしていた。
わかってはいるのだが、心のどこかで疑っていた。

(あの王・・・・。国王としても、軍略家としても・・あれは真の天才。百年に一度出るか出ないかの・・・・・・・・最上の人間。)

そんな人間にユールヒェンが惹かれないわけがない・・・・。
あの頃、俺は独立すら出来ずに、ただユールヒェンと戦って・・・・・。

(くっそ・・・。嫉妬かよ・・・・。結局は。)

それを認めるのに、時間がかかった。
聞けなかったのだ。
男のプライドが許さなかった。
「他国」の支配を受けている間に、本気で彼女に迫るなど・・・・。
自分でも今までわからなかった。
今、自分の民が初めてオーストリアからの独立を目指してくれた・・・・・。
「国」としての誇り・・・・矜持を取り戻した・・・・。
だから聞けた・・・・・・・。
だから言えた・・・・・・・。

「お前なんかに侮辱される覚えはない!!」


「大王がお前の恋人じゃないなら、答えをくれ。お前は俺をどう思ってる?」

「!!」

怒りの表情を浮かべて立つユールヒェンの姿は誰よりも美しい。
怒り・・・戦い・・・・ああ、こいつはいつも戦う姿こそが美しいのだ・・・・。

剣を胸に突きつけられながらもハンガリーは平然としてユールヒェンを見つめている。

「大王陛下は俺に言った・・・。」

ハンガリーは一歩ユールヒェンの方へ近づいた。
ハンガリーの胸に剣先が突き刺ささる。
ユールヒェンははっとなった。

「もし、お前にふさわしい男が現れたなら・・・俺が判断していいって。」
「どういうこと?!」
「俺がみて、お前の惚れた男がどうしようもなかったら、俺が消しちまっていいってよ。」
「親父様が?!なんでお前に?!」
「俺がお前を好きだって大王様に言ったから。」
「はあっ!?そんな事、親父様から私は聞いたことない!!」
「まあ、男同士の話しだったし・・・。なんにせよ、俺がこの宮殿に何の妨害も無く入れるのは何故だって思うんだよ。大王様が俺は勝手に入っていいって言ったからさ。」
「親父様が・・・・お前に?!どうしてそんなことを!!そんなこと親父様が許すはずない!」

ハンガリーがもう一歩、ユールヒェンに近づいた。
ハンガリーの胸を剣が突き通って、じんわりと血がにじんできた。
思わずユールヒェンは剣を引く。

「構わねえからよ・・・そんなんは・・・。」

自分の胸からにじみ出だした血を気にも留めずにハンガリーが続ける。

「約束したんだ・・・・・。大王陛下が亡くなる前に・・・・俺はこの宮殿に呼ばれた。」
「・・・親父様が・・・お前を呼んだ・・・?うそをつくな!親父様が亡くなる前、私はずっと親父様のそばにいたんだ!」
「それでもどうしても火急の用事ってことで、ここを離れてベルリンに行ったことがあったろ?あの時、俺は呼ばれたんだ。」
「・・・・・親父様・・・・・・・。」
「陛下は言ったよ。自分はユールヒェンの行く末を見守る事が出来ない。だが俺みたいな「国」なら同じように先の先までずっと生きて行く・・・・。だから・・・・。」
「私にふさわしくない男だったら、お前に殺せって言ったっていうのか!!」

再び激高したユールヒェンがまたハンガリーに剣を突き付ける。
今度は容赦せずに。
ハンガリーは一瞬顔をしかめたが、ユールヒェンの剣を素手で握った。

「お前は強い。だけど姿形は女だ。女としての感情に溺れることがあったっていい。
だけど、私の愛しい娘にふさわしくない男を近づけることは許さない。
俺が、お前に惚れてるのなら、ついでにお前に近づく男を見張ってろってよ。」
「親父様がそんなことを言ったって・・・・私が信じると思うのか!!
「信じなくてもいいぜ。だけど、俺はこうして今でもこの宮殿には好きに入れる。衛兵だって何百年も前から言われてる命令に従ってるのさ。」

ハンガリーの手からも血がにじんできた。
ユールヒェンはそれを見ながら、剣をひくこともおろすことも出来ない。
「娘の幸せのためならなんだってやる。大王は。それがたとえユールヒェン・・・お前に嫌われるようなことだってな。」
「・・・・私が親父様を嫌うなんてことはない!!なにがあったって!!いつだって、親父様は私にとって一番いいと思うことをしてくれてるんだ!!」
「・・・・今までお前に言い寄ってくるような男はたいしていなかった。ろくでもねえ奴はお前自身がのしてきてた。」
「・・・・・・・・・。」
「だけど、今回は俺が言わせてもらうさ。お前が好きだ。俺のものになって欲しい。」
「・・・・・私は・・・・誰のものにもならない!!」
「・・・「国」って意味じゃねえよ・・・。ただ・・・俺達のこの姿・・・「人」の形をしている俺達・・・・俺たちに与えられているこの感情で・・俺はお前を愛してる。
そう言ってんだ。」