二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

銀新ログ詰め合わせ

INDEX|7ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 


 しゅわり、音を立ててそれは弾けた。
 小さな気泡は上を目指し、最後には青く蒼い、それでいて透明な液体にやわらかに溶けていく。
 カランと澄んだ音を奏でるそれを脇に置いて、新八は一息を吐いた。
 隣では銀時が何が面白いのか、既に空になった瓶を揺らして、ころりころりと中のビー玉が動く様を、しきりに眺めている。

「ラムネ、そんなに珍しいですか?まあ大人になってまでわざわざ買って飲む人は、そうそう居ないでしょうけど」

 多少の嫌味も込めて言えば、聞く気が無いのか、唸り声にも似た生返事しか返って来ない。
 それを、おや、と思う。
 何の変哲も無い、それこそその辺の店に置いてあるようなものなのに、一体これの何処が男の琴線に触れたというのか。
 ―――それは少しの、純粋な興味。

「銀さん?」
「…すっげえのな、コレって。飲んだ瞬間、口ん中がしゅわしゅわすんの」
「そりゃラムネですからね。炭酸飲料ですからね。ピリピリすんのは当たり前でしょう」

 呆れた様に応えを返すと、それにさして気にした風もなく、銀時は目の高さまで瓶を上げ、じいとそれを見詰めた。

「天人様々だねぇ」

 そうして誰に言う訳でもなくぼそりと呟かれたその言葉に、新八はハッと身を堅くした。
 迂闊だった。掴み所の無い男さながら、唐突に訪れるそれに、新八は未だその距離を計りかねている。
 さて、どう切替えすべきか。
 悶々とフル回転させている脳とは裏腹に、身体は凍える思いだ。冷たい汗が背中を伝うのを直に感じて、新八は歯噛みする。

「俺がお前位の頃はさ、こんなもん無かったんだ」

 珍しく過去を訥々と語る銀時を、複雑な想いで見やる。
 何も今、と思う。けれど今を逃せば、とも思うのだ。
 そんな新八の葛藤を知ってか知らずか、銀時は尚も続ける。

「いや、あったかもしんねーけどよ、俺ァ知らなかったんだよなァ。―――そんな場所に、そんきゃ居なかった」


「こんな美味いモンが世の中あったんだなァ」

 薄く厚い透明な蒼い硝子の膜の中、からりからりと転がるビー玉をぼんやりと見詰めて、一体彼は何を想っているのだろうか。新八には、検討も付かない。

「じゃあ良かったですね、それを今知る事出来て。こんな旨いモン知らないなんて、甘党のアンタには耐えられないでしょ」

 漸く搾り出した言葉に、銀時は眦を下げて笑った。そうだな、と一言告げて。
 カラリと鳴った音を聴きながら、己の過去を思い出す。昔飲んだラムネの味は、それこそ甘美で透明で、きらきらと輝いていた。
 アンタと違って自分は良い思い出しか無いですよ。
 そう言ったのならば、この男は先程の笑みよりも更に深く微笑うのだろう。
 それは新八にとって誇らしく、そしてほんの少し悲しいものだった。
 埋まりはしないこの溝を、けれども塗り替えてやろうと、新八はその一回り大きな掌に握られた瓶を引っ手繰り、そうして空いた片方の手で男の胸倉を掴む。
 勢いのままに噛み付いた唇から、しゅわりと弾ける音が聞こえた気がして、新八は少しだけ、泣きそうになった。


作品名:銀新ログ詰め合わせ 作家名:真赭