銀新ログ詰め合わせ
『野郎も人斬りだ。自分でもロクな死に方できねーのくらい、覚悟してたさ』
「銀さんもそう思ってるんですか?」
しとしとと細やかな雨が降る日だった。
柔らかな針の様な天幕をちらりと窓越しに見て、それから新八は専用のデスクに座って怠惰を貪る男に目を向けた。
「何が?」
「だから、この間言ってたじゃないですか。銀さん自身も、自分は碌な死に方しないと思ってるんですか?」
誤魔化す事は許さぬと真っ向から眼差しを送れば、真剣に受け取る気が無さそうな、しかし逡巡している様な、動揺等微塵も見せない普段と同じ曇りきった眼とかち合った。
逸らしたら、終わりだと。
何故かそう思った。理由はよく解らない。
聞くからにはそれ相応の覚悟が必要なのだ。
受け取る、受け入れる器でなければならない。
音の無い雨の音を何処か遠くで聴きながら、新八は長いとも短いとも思える時間を待った。
それにとうとう根負けしたのか、ゆるり、銀時は一つ瞬きをして、それから徐に口を開いた。
「そうだと言ったら?」
何時もと変わらぬ覇気の無い声は、然しだからこそ男の本音に違いない。
男が見せる、数少ない真実の一つ。
ひゅうと息を飲んで、一度だけ、新八は自身の唇を軽く噛んだ。
そうしてぎり、と銀時を睨め付けた。
「アンタ、莫迦ですか」
搾り出した声は、予想以上に怒気を孕んでいた。
それには流石に驚いたのか、銀時は僅かに瞠目し、それからまじまじと新八を見詰めた。
新八はひどくゆっくりとした動作でソファから降り、机を挟んで銀時の前に立つ。
そうして一言、今度はしっかりとした声音で言葉を紡いだ。
「僕は、許しません」
「……何が、」
「アンタが、です。アンタがそう思っている事も、そうなる事も、絶対に許しません」
アンタは確かに人を斬ったのかも知れないけど、でも、そんな事は無い筈です。
そう話す新八の顔はくしゃりと歪んでいて、その言葉を裏切っていたけれど、銀時はそれでも良かった。
「もしそうなるのなら、全力で阻止します」
それが仮令実現不可能であろうと、新八はきっとそれをやろうとするのだろう。
丸く黒い輝石の中に、笑い損ねた歪な顔をした自分が映っているのを見てしまって、今度こそ銀時はぐしゃりと彼にしては珍しく表情を崩した。
ゆったりと手を伸ばして、少年の頬を撫ぜる。
薄い皮膚の下から感じる温度が、とても心地良い。
そうして銀時は、矢張り彼にしては珍しくふわりと微笑い、
「ありがとな」
降りしきる銀糸の雨に溶ける様な温度で、ほんのりと少年の心を灯した。
*煉獄関後の話。