銀魂ログ寄せ集め
「銀ちゃーん!コレ、御裾分けだってババアから預かったアル」
「…んだコリャ。饅頭?」
「糖尿銀ちゃんの為に甘さ控えめネ」
「人を勝手に糖尿扱いすんなっつってんだろ。俺は未だ寸前だ」
ぶつくさと未だに文句を言う男に焦れて、神楽はずい、と渋い色をした風呂敷を突き出した。
慌てて受け取られたその中身は、何処にでも売っていそうな安っぽい饅頭が四つ、ぎゅうと押し込められていた。
「うおー、結構デケーなァ」
感嘆の息を吐く男をちらりと横目で見やり、神楽はひっそりと笑みを刷く。
甘味如きでこんな表情をするとは。
神楽は男の、こんな子供の様な所を垣間見るのが好きだった。
「四つあんな。って事は、俺二つ、お前一つに新八が一つという内訳になるな」
「あ、銀ちゃん。あたし要らないアル」
「は?!」
瞠目する男ににやり、哂いながら、彼が悔しがるであろう台詞を放つ。
「ババアの所で先に食べて来たネ。だからもう良いアル。残りは愚民共に分けてやるアルヨ」
「……待て、神楽。先に食べたって何だ?」
「そのままの意味アル。お腹一杯食べたから、後は銀ちゃんが食べるヨロシ」
「おまッ、つー事はあれか?お前が鱈腹食った所為で残りこんだけ?こんだけなのか?!」
「そうとも言う」
「テメッ………………………すんません、食べさせて頂きます」
好い加減うざったいと徐に拳をあげれば、男はいとも簡単に白旗を揚げた。
そうして彼は神楽の密かに好きなあの顔で、いそいそと包みを開け始める。
一つ、取り出してガブリと齧り付く。
二つ、取り出して、今度は少しゆっくりと咀嚼し、味わう。
三つ、男はゆるりとその表面を撫で、そうしてそれを包んでいた布を拾い上げ、やんわりと覆った。
「食べないアルか?」
疑問に思ったそのままに、じいと見詰めて尋ねれば、目の前の男は少し、困った風な顔をした。
―――珍しい、
それが率直な感想。次いで、ああ、と思った。
「一寸出掛けて来るヨ。夕飯までには戻るアル」
「神楽?」
「散歩アル!定春ー!」
足早に玄関へと向かい、ぴしゃりと戸を閉めた。
階段途中の踊り場で愛犬の白い毛に埋もれながら、神楽はこの後の事に思いを馳せて、少し泣いた。
甘味は男の好物なのだ。
気紛れだろうと分け与えて貰えるのは、自分と、そしてあの少年だけ。
そう、思っていたのに。
宝物の様に大事に抱えられたものを疎ましく思いながら、こんな事なら全部平らげておけば良かったと、神楽はぎりと唇を噛んだ。
「行くよ、定春」
此処に居ては、鉢合わせてしまうだろう。
それは、絶対に勘弁して欲しかった。
わうんと一声吼えて大人しく着いて来る愛犬に微笑んで、足早に其処を離れる。
二つ残った饅頭。
それを口実に呼び出されるであろう誰か。
男がそれを誰と食べるのかなんて、分かりたくもなかった。