銀魂ログ寄せ集め
ちゃぽ、と透明な水面が揺れて、細やかな漣がたつ。
表面に映っていた景色がぐにゃりと歪み、それに満足した神楽はどかりと全体重を後ろに居る男に預けた。
すかさず重い、と愚痴る男を無視して、ゆっくりと瞼を閉じる。
晴れ渡った空には容赦無く熱を注ぐ太陽が居座り、揺らいだ景色は朧げで、別世界へと迷い込んだような余所 余所しさを感じてしまう。
煩い位の蝉の声を何処か遠くで聞きながら、背後に確かに感じる気配と温もりに、神楽はそっと安堵の吐息を漏らした。
暑さに極端に弱い彼女の為に珍しくも銀時が用意してくれたのは、大きめの桶に冷たい水を張る、というものだった。
正直莫迦にしているのか、と憤りそれを口にしようとした瞬間、神楽の眼が捉えたのは、何とも微妙な表情をしている銀髪の男の横顔で、それきり何も言えなくなる。
「今時こんなんやる奴ァ居ねーんだろうけどな」
そう呟いて神楽の足を取る男の顔はどこか遠くを見ている様な、何かを懐かしむ様な愛しむ様な、少しだけ寂しさを伴うもので、知らず彼女は眉を寄せた。
冷たかった水も今や微温湯と化しつつある。
何処からかかっぱらってきたらしい簡易チェアを揺らしながら、氷を買ってくると言って出て行った少年を想う。
―――早く帰って来い。
水が温くなってしまった。足が冷えない。これでは意味がない。
早く、早く。
ふいにぽん、と頭上に置かれた大きな掌を、苦虫を噛み潰した様な気持ちでどうにか耐えた。
こんなのは、知らない。
生温く柔らかな何かに包まれている様な気持ち悪さが堪らない。
否、決してそうでは無いから気持ち悪いのだ。
早く、帰って来い。
そうして遅いと怒鳴って買って来た氷を一つ二つぶつけてやろう。
序でに水を浴びせて入れ替えさせるのも良いかもしれない。
にやりと笑うと、神楽は頭上の手を取った。
男が偶に見せる優しさは毒だと、心の底からそう思う。