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永遠に失われしもの第5章

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テベレ川を渡ったところで、町馬車から
 降りたシエルとセバスチャンは、
 法王庁を囲むバチカン城壁を眺めている。


 「で、どうやって乗り込むつもりだ?」

 シエルは、セバスチャンを見上げて聞く。


 「枢機卿のどなたかに謁見を申し込む体で
  正面から参りましょう」

 「だれか心当たりはいるのか?」

 「エット-レ枢機卿などは如何でしょう?
  次期教皇候補筆頭の権力をお持ちですし
  ・・」

 「何だ?その含み笑いは?」

 「大変な美少年好きと伺っております故
  貴方が謁見を申し込んでも、
  誰も不思議には思いませんでしょう?」

 「く・・・」

  シエルは歯軋りが聞こえてきそうなくらい、歯を食いしばっている。


 「大丈夫です。
  貴方に手を出させやしません」

 と、身体を屈め、シエルの耳元で囁くセバスチャン。その冷たい吐息が、シエルの耳をくすぐる。

  
 「尤も、今ではその気になりさえすれば
  逆に貴方の方が
  彼を喰らってしまうかもしれませんが」


  とセバスチャンは挑発的な目をシエルに向ける。


 「ともかくその眼帯をお外ししましょう。
  髪の色も変えて!
  貴方のご容姿は記憶に残りすぎます。
  今更ファントムハイブ伯爵を
  名乗るわけにもいきませんでしょう?」


 「ああ、そうだな」

  セバスチャンは、優雅に手袋を外すと、
  主の髪をそっと撫でる。
  シエルの髪は次第に金色に変化した。


 「自分でできる!」


  シエルはセバスチャンの手を跳ね除けるが、そのシエルの手をつかんだセバスチャン。


 「魔力をお使いになりますと、
  お腹がお空きになります。
  こんなところで貴方に飢えられても
  困りますので」


 渋々了承の意を表情で伝えるシエルを見て、セバスチャンは微笑を浮かべてその手を離した。


 「服装もお変えしましょうね。

  貴方はポーランドからの亡命貴族
  なかば没落しつつある家系の後継者・・
  などといった所にしておきましょう。」

 「お前楽しんでるだろ??」

 「当然です」


  全てを変容させ終わったセバスチャンはシエルを愉快気に見つめながら言った。


 「さぁ、参りましょう」
作品名:永遠に失われしもの第5章 作家名:くろ