永遠に失われしもの第5章
バチカン城壁の、灰色の鉄製の重々しい門の脇に設置された衛兵所に、セバスチャンが歩み寄り何かを囁く。
黒いベレー帽と山吹色と紺の制服に身を包み
片手に槍を携えた衛兵は、
シエルの元に来て告げた。
「それではどうぞ、オレイニク公爵様」
衛兵は先導して、
シエル達の案内を務める。
鉄門を通過し、緩やかな石のアーチでできた第2の門を通る際に、シエルはセバスチャンをぐいと引き寄せた。
「おい、本当にその何たら枢機卿に
僕は会いにいくのか?」
「ええ。
衛兵を多数殺して
大騒動を起こしても構わない
というのでしたら結構ですが、
それはそれで
少々面倒なことになりそうですので」
「ただバチカン図書館で
文献を見るぐらい、
枢機卿に謁見しなくたって
可能だろう?」
セバスチャンは
柔らかい微笑をシエルに向けた。
「そちらには大した記録はないかと。
バチカン秘密文書保管所に
重要なものは全部納められております。
現在の長官はエットーレ枢機卿で、
言うまでもありませんが、
重要文書は非公開です」
「で、僕はその枢機卿を言いくるめて
秘密文書保管所に入る権限を得てくる
というわけだな?」
「私一人潜入するのでも構いませんが、
ご自身の目で確かめたいのでは?」
「ふん!
しかし事前に謁見の予約もなしに、
大体胡散臭いこの身分の割りに
案外あっさり通すものだな・・・
僕なら、ここの衛兵は全員首だ」
「大方このようないかがわしい謁見が
何度も過去行われているのでしょう、
エットーレ枢機卿の場合は。
オレイニク様」
「何なんだ?
その舌を噛みそうな名前は・・」
半ば呆れた顔をするシエルにセバスチャンは微笑む。
「ご自分の名前を
覚えて置いてくださいね。
レオ・アウグスト・オレイニク様」
シエルは、
はーっと大きなため息をついた。
作品名:永遠に失われしもの第5章 作家名:くろ