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『その日』の彼女 前編

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「ど、どどどどどうかしら!!」
 フィッティングルームのカーテンを勢い良く開いて、何故か仁王立ちするハンガリー。
 着ているのはふわふわシフォンの花柄ミニワンピース。
 なんともいえない初々しい可愛いらしさの中に、そこはかとなく色っぽさの漂うデザインは、童顔グラマーな彼女に良く似合う。
 振り向いた姉妹のうち、人のよさそうな姉は、彼女を見るなり眼を輝かせて歓声をあげた。
「うわあ!すごく可愛い!似合ってるよハンガリーちゃ」
「発情した雌の匂いがぷんぷんする」
 ざっくり
「ベラちゃああん!??何言ってるのちょっと!!」
 真っ青になって叫ぶウクライナ。ふにゃふにゃぺしゃーんとへたり込み、がーっと耳まで赤くなるハンガリー。
 いつもながらナイフよりも鋭いベラルーシのツッコミは、彼女のこっ恥ずかしい期待だの思惑だの野望だのを容赦なく暴く。
「いいいいいや、いいの、うん!そうよね!うんわかってた!!!すいませんいい年して、まだいけるんじゃないかなあとか、ちょっと、夢みてました着替えてきますううははははは!!!!」
 半泣きで大笑い、という器用な真似をしながらすごい勢いでカーテンを閉めようとするハンガリー。その腕をガッと止めたのも、なぜかベラルーシだった。
「何故だ。好きなんじゃないのか、あいつは、そういう格好」
「え」
「ああいうへタレむっつり野郎を明確に発情させて上に乗っからせるには、それぐらい判り易い格好をしてたほうが効果的だろう」
「ベラちゃんちょっと表現が直接的だよ…ここお店だよ」
「そ、そう!?そうかな!!??」
「あっそこ食いついちゃうんだねハンガリーちゃん。お姉ちゃんちょっと意外」
「でも、でもね、あいつ、私がちょっとでも薄着する度に、無駄な贅肉みせびらかしてんじゃねえよとか、見苦しいから着てろとか言って、上着投げられたり」
「安心しろ。同居時代に何度かそういう場に遭遇したが、お前が背をむけた瞬間いつも、首筋だの尻だの腰だの脚だの全身隅々を性的な目で舐めるように視姦していたぞ。正直気色悪かっ」
「ダメだよベラちゃん!!お姉ちゃんもちょっと気付いてたけど!ぶっちゃけ露骨すぎてひくわーとか思ってたけど、言っちゃダメだよ!」
「隣の部屋のリトアニアもこぼしていたが、夜になると度々お前の名前を連呼しながら一人寂しく抜いていたそうでますますキモ」
「仕方ないよ、うち壁薄かったんだからしょうがないよ、皆知ってるけどそんなのバラしたら可哀想だよおおお!」



* * *



 さて、なんだかんだと大騒ぎの末、先ほどのワンピースを購入したハンガリーは、姉妹と共に作戦会議に移行した。場所はショッピングモール内のこ洒落たオープンカフェテラス。
「そもそも何を今更まだるっこしいことを言っている。お前たち、昔からやりまくってるんじゃないのか」
 響き渡る声に隣の家族連れが凍りつき、カップルが気まずげに席を立った。静まりかえったその場に鳩の鳴き声だけがくるっくーと平和に続く。
「べ、ベラちゃーん…もうちょっとだけ、言葉を選んで…」
「そうなんだけど、でも、おかしいの!!」
「えっ。すんなり肯定!!?…どうしようお姉ちゃん今日ちょっとハンガリーちゃんのキャラが掴めない」
「わかってるのよ…でも変なの!!『付き合う』って、なっちゃってから…逆に、い、意識しちゃって!なんか、顔見れないし目合わせられないし、向こうも妙によそよそしくて…っ!!もう、わけがわからないの…!」
 耳まで真っ赤にして、うつむくハンガリー。握りしめた拳にぽたぽた涙が落ちる。
 ベラルーシはそんな彼女を、いつもの温度のない瞳でしばしじっと見つめ、おもむろに重そうな鞄をテーブルの上に投げ出した。
「…読め」
 中から出てきたのは数十冊の雑誌。びっしりと付箋の貼られたそれは一見、女性の好むお洒落なファッション誌に見えた。
 くすんと鼻をすすって、涙目のままパラパラとページをめくるハンガリー。
 しかし一瞬の後、彼女は驚愕に息を飲む。
「…こ、これは!?」
 紙面にポップな字体で踊るキャッチコピー。『男と女のLOVE取扱説明書』『恋愛体質になる方法』『カワイイはつくれる★プチ改造でいきなり格上げ!』『これが「結婚できる」服』云々。そして妙に具体的で現実的で目的意識の明確な記事の数々。
「な、何…!?この一見可愛らしい言葉でコーティングされた毒々しい策謀姦計指南書は…!」
「これを毒々しいと笑うか!ぬるすぎるぞハンガリー!」
 ハンガリーの鼻先にビシイと指をつきつけ、唇を歪めるベラルーシ。
「策謀姦計のどこが悪い。詐術の限りをつくしてでも好いた男をたらしこむ――女子たるものの、永遠の命題だろうが!」
「で、でもだからといって…こ、こんな、なんか不自然な」
「甘ったれるな!現実を直視しろ!!恋は戦争だ。自然な流れ?ハッ、笑止な。流れはこの手で作るものだ。仁義やプライドなど入りこむ余地はない!BL全盛…もとい!草食男子蔓延る世知辛いこのご時世、勝ち残りたくば、心を捨てろ!殺す気でかかれ!わかったら口で糞垂れる前にサーと言え!」
「さ、サー!イエッサー!」
「私たちに必要なものはなんだ!言ってみろ!!」
「『モテ可愛スリムピュア肌メイク!ゆるふわコーデで愛され女子!』」
「どうしよう…わからない…ふたりがなにを言ってるのかお姉ちゃん、わからないよ…」
 よくわからないがおそらくいわゆる『モテカワ愛されガール』からは凄い勢いで遠ざかっていく二人を眺め、ウクライナはただ呆然と立ち尽くしていた。






作品名:『その日』の彼女 前編 作家名:しおぷ