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ダブルパロにしようとしてならなかったパロディな話

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それは桜の咲く前の、まだ少し寒さの残る季節のことである。



 非日常に憧れ上京してきた竜ヶ峰帝人はしかし、特にこれといった非日常に出逢うこともなく、この春から通うことになる高校の入学式の日を待っていた。通い始めれば少しは忙しくなってくれるだろうという期待が多分に含まれているのだが、己の順応力の高さを何となく理解している彼は物足りなさを払拭し切れないまま電車に乗り込んだ。
 車窓から見えるネブラ社の嫌でも目を引く建物や、車内吊り広告のいづれにも印刷されている社名をぼんやりと眺める。名前だけなら地元にいる時から知っていた。新聞でもインターネットでもよく見るその会社は世界的にも有名で、先進国で知らない輩は余程の無知か隠者かのどちらかだろう。故に非日常を追いかける帝人にとって日常に溢れているその社名は興味の対象ではなく、実際にその建物を見て驚きはしたがそれも最初の3日のみで、今はもう何の感動もない。己の適応性の高さに嫌気が差し、帝人は溜息を吐いた。
 電車を降りても人が溢れている。地元に比べて何と人の多い、とは思うが覚えてしまった道はやはり日常でしかない。再び溜息が出そうになりしかし、突如揺れた地面にそれは飲み込まれた。地震、と誰かが叫ぶがそれよりも

「退いて下さい!」

上方から聞こえてきた少女の声に気を取られる。声も出ないままにそちらを見やれば、肩まで伸ばした黒髪に眼鏡をかけた少女が降ってくる。
 ああ非日常だ、と帝人は自らも気づかぬ内に微笑んで、
「うわあっ!?」
少女の下敷きになった。
 痛みと衝撃ですぐに笑みは掻き消えたが興奮冷めやらぬ心臓はドクドクと鳴り続ける。
「あの、大丈夫……?」
やっとのことでそう言うと、少女は彼の上から身を起こした。
「ありがとうございます、貴方が受け止めて下さったんですね」
 非日常は美少女だった。
「い、いや、僕はただここにいただけで……」
先程までとは異なる感情を加えて脈拍は更に加速する。しどろもどろに会話を続けようとするのだが、
「危ない!!」
グイ、と身体を押された直後、元いた場所へと蹴りかかってくるセーラー服に眼鏡をかけた三つ編の少女。ドガン、と鈍い音がしてコンクリートに罅が入った。
「逃げたって無駄だよ!」
「闘……」
更にその後ろには同じ顔をした体育着の少女がいて、何かしらのスプレー缶を構えていた。何だこの非日常、と誰に知られるでもなく瞳を輝かせる帝人を庇った最初の非日常である美少女は、す、と立ち上がると
「私はまだ、闘いません」
言って帝人の手を握り、
「え?」
そのままその場から逃走した。











「ここまで来れば……」
 振り返る彼女へ言葉を返す気力すら帝人にはない。運動が得意ではない彼にとって俊足の彼女に手を引かれたまま走るのは身体的にかなり辛かった、最後の方など引き摺られていた気がする。
「あの……、大丈夫ですか?」
何とか大丈夫だと言いたくても呼吸するだけで手一杯だ。
「ごめんなさい、巻き込んでしまって」
そんなことはない、ということだけは首を振って伝える。それでも少女はおろおろと帝人の身を案じていた。
「よく考えれば、私だけ逃げれば良かったのに、何ででしょう、つい手を取ってしまって」
何とか呼吸を整えて、今の今まで繋がれていた手を見る。
 柔らかかった、女の子の手だった。
 生まれてこの方、異性と交際したことのない帝人にとってそれはそれは貴重な体験だった。思わずキュ、と拳を作る。非日常な美少女に出逢えたことで電車を降りるまでの憂鬱はどこかへ飛んでしまったようだ。
「申し遅れました、杏里といいます」
「あ、竜ヶ峰帝人です」
「竜ヶ峰さん、改めて、先程はありがとうございました」
礼を言いたいのはこちらだと思いつつ、本当に何もしていない、と言っておくに留める。美少女から変人扱いは御免被りたい。
 そう美少女。見れば見る程に杏里を可愛いと思うが、それでも帝人の興味は別のことへと傾く。杏里と名乗ったこの少女を襲ったセーラー服と体育着の少女達、その少女に蹴られただけで罅が入ったコンクリート、杏里は追われていたのだろうか。
 考えても詮無いことを考えつつ、空を見上げればそろそろ色が変わり始めている。
「ええと……、時間とか大丈夫? 送った方が良い?」
自分がいたところで凡そ何が出来るわけではないけれど、と苦笑して言えば、杏里は表情を曇らせた。
「杏里さん?」