ダブルパロにしようとしてならなかったパロディな話
数時間後
「本当に、本当に竜ヶ峰さんには感謝してもし切れません。助けていただいた上に、こんな……」
帝人の住居であるボロアパートで、杏里は深々と頭を下げた。帰る所がないと言うので放っておけずに連れて来てしまい、大家に事情を話して――――9割は捏ち上げである――――部屋に上げたのだ。ああそんなに非日常に関わりたいのか、と自己嫌悪に陥っている帝人は己をお人好しだとは微塵にも思っていないが、彼は他者から見れば凡そ善人であった。
「……竜ヶ峰さんみたいな方が、私の葦牙様だったら良いのに」
「あしかび……?」
ただ少し、いやかなり、いっそ異常な程に非日常に対して執着しているだけである。そんな彼の自己嫌悪は耳に馴染みのない言葉に対する好奇心で塗り潰され、その心の赴くままに説明を求める。
「はい、まだ見ぬ大切な方です。私達はそれぞれの葦牙様のために生まれてきました」
答えながら、杏里の手が帝人へと伸びる。
「いと高き嵩天へと、彼の人を導くために」
――え……っ
途端、杏里はくたりと帝人へ身体を預け、切な気に眉を寄せた。
「あ、杏里さん?」
「私、……どうして……? どうしよう……」
身体が熱い、と譫言のように喘ぎ、その身を更に密着させるように押しつけられ、支え切れずに帝人は床へと倒れる。
「杏里さん……っ」
マズイ、何かがマズイ、と肩を押し返そうとしてしかし、誤ってその手は杏里の豊かな胸へ。
「……あ……」
「ご、ごめん!!」
しかもその手の上から杏里の手が重なったために退かすに退かせない。
「竜ヶ峰さん……、私、……わたし……っ」
「あの、ちょっと待っ……」
近づいてくる唇から目が離せない。
「杏里さ……――――」
重なる唇、僅かに触れた舌、
彼女の背から浮かび上がる紋と、光の羽――――
ああ綺麗だな、と帝人は息を呑む。
「見つけた……」
瞬きすら忘れている帝人に抱きついて
「見つけました、私の葦牙様」
彼女はそう言った。
鳴り響く携帯電話にそれまでの日常を奪われるまで、あと――――――――
作品名:ダブルパロにしようとしてならなかったパロディな話 作家名:NiLi