永遠に失われしもの 第6章
長く続く秘密文書保管庫の廊下に、
シエルとセバスチャンの靴音だけが
木霊する
天井から重く垂れ下がるペンダント状の明りを幾つも通り過ぎた奥に、
書庫の重々しい扉があった。
普段は厳重に警備されているはずの
その扉の前には、衛兵一人いない。
エットーレ卿に人払いさせたのだ。
卿から半ば強引に奪い取ったとも言える
古めかしい鍵を、セバスチャンが差し込む。
重々しい音を立てて扉が開くと、
数段階段を下がった場所に、
恐ろしい数の書架が見えた。
階段をさがった脇には、
大きいが簡素な机と椅子がおいてある。
「ここで、お待ちください」
セバスチャンは椅子を引き出し、
シエルを腰掛けさせた。
そう待たないうちに、
セバスチャンは山ほどの古書を
軽々と片手で持って現れる。
「魔剣関係の記載のある本は全て
お持ちしたつもりですが--
ぼっちゃんもお探しになりますか?」
「いや、いい」
シエルは、
机の上満面に積み重なる本の山の中から
とりあえず、一冊引き出して開いてみる。
山羊皮で出来た表紙をめくるとそこに、
手書きのヘブライ文字が並んでいた。
ヘブライ語など習熟した事もないのだが、
シエルの虹彩が細く光始めると、
自然にその本一冊丸ごとの内容が、
瞬時に頭の中に
流れ込むように入ってきた。
どうやらこの本には
あまり役立つ情報は無いようだ。
次の一冊は、突厥文字による
ハザール語の本だった。
次々と読破していくが、
未だこれといった情報は得られていない
事に次第に苛立ちを見せるシエルだったが
ついにガリア語の文献に手をつけた時に
セバスチャンを見上げる。
「ああ、キリスト経以前に信仰されていた
ダーマ神話のクラウ・ソナス
(Claimh=Solais) ですね。
不敗の剣と詠われ、
一度鞘から抜けば、いかなる者も
それから逃げることは叶わない
と伝えられている--」
シエルはその後何冊かを読みふけった後
机をとんとんと指で叩きながら、
しばらく物思いにふけり、
そして静かに話し始めた。
「それだけなら、
単なる伝承に過ぎないが・・
・・・・
文献によって、クラウ・ソナスは
剣であったり槍であったり、
多少の記述の差はあれ、
ここにある書物から導き出される結論
としては・・・
ガリア地方が、
古代ローマ帝国の侵攻を受けた際に、
クラウ・ソナスは彼の地から略奪され、
長らくローマ皇帝の宝物庫にあったが、
その後今度は皇帝から教皇に献上された
と記されている。
そして、さらにこちらの本によれば
紀元11世紀半ばに、ローマ教皇から
聖ゲオルギウスに
悪魔の化身・・竜退治の指令が下った時
クラウ・ソナスが彼に貸し出された、
とある。
ところが、
それが返却された記録はない」
「ということは?」
「聖ゲオルギウスは果たして
本当に悪魔を退治したのか?」
「どういう意味です?」
作品名:永遠に失われしもの 第6章 作家名:くろ