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永遠に失われしもの 第6章

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 「それではここでの用事は
  終了というわけですか?」


 セバスチャンは顎に指を当てて尋ねる。

 不意に焼けつくような喉の渇きを感じて、
 シエルが洩らす。


 「ああ・・
  喉が渇いたな・・」


 「ああ--ぼっちゃん、
  それは、おねだりですか?」


 シエルは顔を赤らめて、否定するように
 頭を振る。
 セバスチャンは頭の上にそっと手を添え、
 その髪を撫でて言う。


 「いいのですよ、我慢しなくても。

  貴方は文献を読み、
  求める情報を得るために
  魔力を使っているのですから、
  渇きや飢えが襲うのは当たり前です」


 「いい、屋敷に帰ってからに・・する」


 セバスチャンの手をはね除けるシエル。
 

 「さすがに法王庁で、
  というのは気が引かれますか?」

  
 「別にここがどうのというわけじゃない!
  僕は初めから神に背いた身だ」


 「わかりました。
  それではここを出て、
  演奏会に行くことにしましょう」


 セバスチャンは胸に手をおき、
 了承した旨を表して、
 そのまま優雅に円を描くように
 その手をシエルに差し出し、
 主の手をとった。

 
 差し出された手を掴み、
 椅子から立ち上がりながら、
 シエルは呆れたようにつぶやく。


 「お前、まだ行く気でいるのか?」


 「ええ。いけませんか?
  私は予定が狂うのは嫌いですので」


 シエルは舌打ちしながら、書庫をでる。
 また長い廊下を渡って、
 保管庫の建物の外に出ると
 もう陽は随分と傾き、
 そろそろ日没を迎えようとしていた。

 
 サン・ピエトロ寺院の丸屋根に突き出る
 尖塔に夕日が反射して輝いている。


 --今日のところは、もう
 邪魔をする方は現れないようですね--


 街を行く馬車を止め、シエルを乗せると
 セバスチャンはシエルに言った。


 「劇場まで、先にお一人で
  向かっていてください。

  後始末を終えましたら、
  あとを追いかけます。」


 御者が馬に鞭をくれ、馬車が走り出す。
 セバスチャンは、その馬車が見えなくなるまで、
 その場で身動き一つせずにシエルを見送っていた。