娘娘カーニバル! 第1章(後編)
「そうだな。今悩んでも始まらないし、もう少ししたら何か分かるかもな!」
明るい表情になった劉備ガンダムたちを見て、超雲はふっと笑みを溢した。
「では次は、あの黒い兵隊についてだな。」
「彼らは烏丸の兵隊です。私たちが住んでいた幽州の国境を荒らしていた者たちです」
「確かにあの烏丸の兵は三璃紗で倒したはずなんだ。なのにどうして、異世界にいるんだ?」
烏丸の兵は公孫さんとの闘いで白馬陣によって倒れていったのだ。
だいたい、三璃紗の烏丸の兵がこちらに現れるなどあってはならない。しかも、黒い兵となって。
再び沈黙が流れる中、馬超の椅子が軋む音が響く。
「黒い兵隊はよくわかんないけどさ、あんたたちはガンダムっていう強い武将で、
今は女の子になってて、その理由は分からないでいいのか?」
「そう思ってくれればいいと思う」
「じゃあ、次はお姉ちゃんたちの名前なのだ!」
元気な鈴鈴の提案に愛紗は内心で義妹をめちゃくちゃ褒める。
(鈴鈴、良くやった!)
それを表に出さないようにしながらも愛紗は満面の笑みで頷いていた。
「自己紹介か、確かに互いに名乗っていないから」
鈴鈴の提案に再び和やかな雰囲気が戻ってきたのを感じる。自分や超雲、桃花は劉備ガンダムたちのことを信用してもいいと思っている。
馬超も武人として通じるものがあるらしく好意的だ。そして、黄忠は娘がなついたから親しみを持っている。
しかし、義勇軍の頭脳である孔明は警戒しているし、魏延は桃花に親しくしてもらっている劉備ガンダムが気に入らないらしい。
劉備ガンダムたちに協力したいと思っている愛紗はここで劉備ガンダムたちに孔明と魏延と仲良くなってもらいたいと思う。
特に、魏延と超雲ガンダムとは溝を埋めてもらわなければ。
「あの時は忙しくって良く聞こえなかったからもう一度なのだ♪あと、鈴鈴は張飛なのだ!」
鈴鈴の自己紹介に劉備ガンダムは椅子から立ち上がった。
「張飛だって!俺の義兄弟にも張飛がいるんだ!」
「劉ちゃんと私の名前といい、鈴鈴ちゃんと劉ちゃんの義弟さんといいすごい偶然だね」
「あたしは馬超、でこっちが魏延」
「さっきは済まなかった」
「いや、これから仲良くしてくれ。よろしくな」
人好きのする笑顔を向けられ魏延は申し訳なさに馬超を盾にしてしまった。
結局、握手したのは馬超となったが劉備ガンダムは気にせず話しを続ける。
「でも、すごい偶然が重なるな。馬超は俺の知り合いにもいるし、愛紗の名前は関羽だよな!関羽も俺の義弟なんだ」
「ほお、それは偶然だな」
好調な出だしに愛紗は超雲に視線を投げかけた。その視線に気付いたのか超雲が超雲ガンダムへと話しを振る。
「おぬしは私と同じ超雲だったな」
「えぇ。本当に偶然が続きますね」
「まあ、星さんと同じ名前なんですね。あっ、申し遅れました。私は黄忠、この子は璃々」
「よろしくね、超雲お姉ちゃん」
「よろしく、璃々ちゃん」
『お姉ちゃん』と言われるのに慣れていないため、超雲ガンダムはぎこちない笑みとなってしまう。
誤魔化すように超雲ガンダムは璃々の頭を撫でて話を振り返した。
「ところで、先程から張飛どのは自分の名前は張飛なのに『鈴鈴』と名乗っているし、
超雲殿も『星』と呼ばれていますがどういう意味でしょうか?」
「私たちとは違う世界から来たのであれば知らなくて当然だな。
朱里、説明してなってはくれんか?」
急に、矛先を変えられ孔明は目を丸くした。
「私ですか…?…分かりました」
孔明は超雲ガンダムに真名について話し始めた。本当に知らなかった超雲ガンダムは時折質問を交えながら熱心に耳を傾ける。
超雲ガンダムの真面目な態度に孔明も抱いていた警戒心を解き始めた。
いつも意地悪な星とは同じ名前とは思えない真摯な様子は好感が持てる。
「まだ、戸惑うことは多いと思いますけど分からなければ聞いてください」
「かたじけない。孔明殿の説明は丁寧なうえに分かりやすくて本当に助かる」
さわやかに笑う超雲ガンダムの笑顔が綺麗で孔明は思わず見惚れてしまう。まるで新緑を思わせる笑顔だ。
高鳴る鼓動に顔を真っ赤にさせて孔明は帽子を深くかぶり直す。
「あわわ、恐縮です」
「朱里、顔が赤いぞ」
にやにやと大きな声で尋ねてくる超雲を孔明は睨みつけた。
「少しは超雲さんを見習ったらどうですか。いつも意地悪ですし」
「自分自身を見習うなど出来はしないぞ」
上げ足を取られ孔明は頬を膨らませた。その様子が年相応に見え、黄忠はくすりと笑う。
超雲ガンダムも大人びた孔明の微笑ましい様子に目元を和ませた。
しかし、名前が被ってしまっている問題は劉備ガンダムたちにも起こっていた。
「えっと、劉備殿を劉備が助けて、劉備が劉備殿を助けて…」
「劉備ばっかりで何をいっているか分からないのだ〜〜!」
「だから、まず姉上が劉備殿に助けられて、黒い兵から劉備殿が姉上をって、あれ?」
「わかんねえよ〜!」
「俺、頭が痛くなってきた」
「私も」
明らかに超雲ガンダムと超雲の間違いよりもややこしい。
膨れていた孔明はこれはいけないと急いで解決策を生み出そうと頭を働かせる。
(真名で呼び合うようにすれば私たちの間では解決しますけど、他の人たちだと変わりませんし)
唸るほど考え込む孔明の耳に璃々の無邪気な声が届く。
「ねえ、超雲お姉ちゃんに真名はないの?」
「残念だが、私は真名を持っていないんだ」
「そうなんだ、真名があればあんな風に呼び方に困らないのにね」
「そう言えば、張飛殿は関羽殿を『髭』とか『鬼髭』などと呼んでいたな」
「三璃紗の張飛さんと関羽さんは男の方なんですか?」
「その通りです、黄忠殿。二人とも劉備殿に負けないくらい立派な侠です」
「劉備さんも男性ということは、超雲さんもですよね。璃々がお姉ちゃんと呼んでいたこと気にしてませんか?」
「まあ、今は女性の姿ですので『お姉ちゃん』と呼んでもらっても構いません」
超雲ガンダムと璃々、黄忠の一連の会話に孔明は瞳を輝かせた。
(もしかしたら、この方法なら!)
「みなさん!劉備さんと超雲さんにもう一つ名前を付けてみてはどうでしょう!」
はつらつとした孔明の声に騒いでいた一同は小さな軍師に視線を集中させる。
「それは私じゃなくて、劉ちゃんにってことでいいのかな?」
「姉上と星にではなく、ガンダムの二人にだな」
「桃花さんと愛紗さんの言う通りです!お二人にはもう一つの名前で名乗ってもらって…」
急に孔明の声がか細くなり、下を俯いてしまう。不安に思い、超雲ガンダムは孔明の顔を覗きこんだ。
「どうかしましたか?孔明殿」
「お二人にもう一つの名前を名乗ってもらうなんてよく考えたらすごく失礼だと気付いてしまって。
名前は誰にとっても大切なものなのに、それをこちらの勝手で変えることはできません」
異世界に来て不安な二人にとって、名前は自分自身だと証明できる簡単な方法でありながらも大切なものだ。
それをこちらの事情で一時とはいえ封じさせるなど相手のことを考えていない。
浅はかな考えに孔明はスカートの裾をぎゅっと握った。
思いつめる孔明を見て、劉備ガンダムは一瞬だけ瞳を見開いた後わざと大きな声を出した。
作品名:娘娘カーニバル! 第1章(後編) 作家名:ソラ