東方少女SS集
永琳が輝夜に慧音の話をしたその夜、ちょうど慧音の容態が急変した。
彼女は意識不明で妹紅の言葉になにも反応しない。
「慧音、慧音!!!!どういうことだよ!!!!!」
何度も何度も妹紅は慧音を呼び続ける。
泣き叫ぶ妹紅の声を傍で聞きながら、輝夜は自室で何も変わらぬ優曇華の盆栽が広げた枝を優しくなでていた。
不老不死の人間にとって大切な者の死はつらいものだ。
誰でも必ず経験する悲しみでいつか訪れるものだということはわかっているが、それでも不老不死の人間にはとても過酷なのだ。
それも、突然となれば。
大切な者が死んでしまえば、また一人で永遠に生きていかなければならない。
それを何度も何度も繰り返さなければいけないのだ。
輝夜は何度も経験しているから妹紅の気持ちが痛いほどわかる。
きっと、妹紅は慧音の早すぎる死に頭を撃ち抜かれるようなショックを受けるだろう。
いや、それ以上なのかもしれない。
それでも妹紅はまた永遠に生きていかなければならないのだ。
けれど。
そうなれば。
輝夜は考える。
慧音の死後におかれるだろう、妹紅と自分の関係のあらゆる可能性を。
上白沢慧音が死んでしまったら、自分と妹紅の関係はどうなるのだろうか。
上白沢慧音が死んでしまったら、自分は妹紅と犬猿の仲のままなのろうか。
上白沢慧音が死んでしまったら、自分と妹紅の関係はかわれるのだろうか。
上白沢慧音が死んでしまったら、自分は慧音のかわりに…
普段考えもしないことが最後に浮かんできた。
どろり。
なにかが崩れた。
輝夜は嘔吐した。
嘔吐したせいか口の中に苦くて酸っぱいものが広がる。
気持ち悪くて、気持ち悪くて仕方なかった。
深呼吸する。
輝夜は自分を落ち着かせるために優曇華の盆栽をもう一度眺めた。
永遠の術にかけられている優曇華はやはり、なにも変化しない。
永遠に囚われている限り変わることは無い。
変わるはずも無い。
そんな優曇華のように、自分と妹紅の関係は永遠に不変で宿敵同士でありつづけるべきなのだ。
出会ったときからずっと。
変な感情は持ってはいけない。
目が合えば殺しあう関係。
決着のつかぬ戦いは月の下で繰り返される。
永遠に。
恒久に。
そう思うことで、彼女は自我を取り戻した気がした。
蓬莱山輝夜と藤原妹紅。
二人は永遠に宿敵同士、そのはずだった。
数時間後、慧音は永久に眠りに就いた。
早すぎる死だった。