東方少女SS集
「なあ、永琳、どういうことなんだよ、なあ」
少女は小刻みにかたかたと肩を震わせて半狂乱になりながら問いかけた。
声に感情をひそめて、その腕には永遠に目を覚ますことのない少女を抱きかかえ。
永琳は何度も謝罪の言葉を言う。
彼女が納得するまで、と何度も同じ言葉で説明した。
でも、妹紅は納得しない。
できるはずもない。
最愛の人を早くにあっけなく亡くしてしまったのだから。
妹紅はわかっているつもりだった。
慧音は不老不死の妹紅と違って永遠に縛られず夢の終わりを知っている。
永遠に一緒にいることはできないのだ。
しかし、こんな形でこんなに早く彼女を失ってしまった。
妹紅は確信した。
そうだ、全ては。
なにもかも、全ては。
不意にぴたりと、永琳に背を向け、彼女の肩の震えがやんだ。
謝り続ける永琳の言葉を遮る.
「永琳、お前は悪くない。そうだ、あの土砂降りの日、あいつは…あいつが何もかも全ての元凶で」
彼女は低い声でぼそぼそと呪詛の言葉を繰り返す。
すべてはあいつが。
すべてはあいつが。
すべてはあいつが。
なにもかもあいつが。
許さない。
許さない。
許さない。
絶対に許さない。
死ね。
死ね。
死ね。
あいつが慧音のかわりに死ねばよかったのに。
「妹紅?」
永琳は妹紅の様子がおかしいことに気がついて声をかけた。
妹紅は振り返った。
妹紅の目は血走り顔は憎悪と怒り全ての負の感情に醜く歪んでいた。
まるで別人のようだ。
普段動じることのない永琳でさえ度肝を抜かれる。
「永琳、私は決着をつけてくるよ。絶対にあいつを許さない」
そういって妹紅はもういちど永琳に背を向けた。
永琳は、まいったわね、と頭をかくことしかできない。
輝夜の自室の障子の戸が外れそうな勢いで開かれた。
盆栽を手入れしていた輝夜はなにごとかと、驚いている。
妹紅のだぼだぼの赤いつなぎが目に入った。
「何の用よ、私は盆栽の手入れしてるし邪魔しないd………!」
妹紅の表情が目に入った。
輝夜も永琳と同様に度肝を抜かす。
まるで般若の面をかぶったかのような妹紅。
端正な顔立ちはぐにゃぐにゃになり、目はつりあげられ、あごはいびつで、尖った歯をむき出しにしている。
「い、一体どうしたのよ」
「どうもこうもない。お前が慧音を殺したんだろ!!!!!」
妹紅は怒りを爆発させた。
火山の噴火のように。
自身のスペカのフジヤマヴォルケイノのように。
「はあ、なにをいって」
「とぼけるな!!お前はあの土砂降りの日、お前が邪魔をしていなかったら、そうして、また私の邪魔をして。私の人生を無茶苦茶に引っかきまわして!!!!!父親の時も私が岩笠を殺してしまったのも全てお前のせいだ!!!!慧音だって、慧音だって!!!!!!!!!!!!」
妹紅の言葉は支離滅裂だった。
激昂して、感情に身を任せているらしい。
そして、輝夜に全てやり場のない悲しみをぶつけていることは妹紅自身も薄々わかっていた。
輝夜にぶつけても意味の無いものを。
でも、妹紅にはそれしかできなかったのだ。
「なんで、あの土砂降りの日、邪魔をした!!!いえよ、私がそんなに憎いのはわかるが、慧音にまで嫌がらせしなくたっていいだろう!!!!お前が邪魔しなければ慧音を永琳に早くみせることができた!!!!雨にぬれて風邪をこじらせたり、あいつが死ぬことも、なにも!!」
妹紅の怒声を輝夜は受けながら考えてみた。
一ピース欠けていたパズルのピースを見つけた気がした。
輝夜は気がついたのだ。
自分は慧音に嫉妬していたのだと。
そして、本当に胸の奥底で抱えていたものに気付いた。
「あはははははは、そりゃああんたが憎いからに決まってるじゃない!!!!当たり前のこと言わせないでよ!!!!!!!!!!!!」
少女は全く正反対のことをいった。