アカシアの樹で待ってて
夏祭りはいつも三人一緒に、という決まりは中学の時から続いてた。
高一の時、ツナは笹川と付き合うとまでは行かなくても何だか良い感じだったから、二人の方がいいかなってオレと獄寺で気を使ったんだけど、ツナは頑としてそこだけは譲らなかった。これが中三のクリスマスなんかだと、オレも京子ちゃんと二人で過ごしてーとか叫んでいたし、本当にその方がいいってツナが思ったら、そうするんだろうと思ったからいつも通りに過ごすことにした。
言い出したらきかないというのは、思えばオレ達三人の数少ない共通点なのかもしれない。
獄寺はツナが気を使ってくれたんじゃないかと思ってたっぽいけど、それでも嬉しそうだった。困ったような嬉しいようなそんな器用な表情をしてたから。でも、ツナの姿勢はオレだって嬉しかったんだ。
ツナが笹川と祭りに行くのであれば、オレは獄寺と二人でも別に構わなかった。
オレと獄寺の二人で回っていても、ツナが笹川と回っているのであれば、他の奴等に何か言われたとしても問題だってないのだ。オレ達は三人セットみたいなものだってクラスの連中は思っているから。
でもそれは平気だって言うだけで、夏祭りの花火はやっぱり三人一緒に見たいとオレも思ってた。
だからツナの言葉は、三人共そう思ってるんだって確認出来たみたいで嬉しかった。
「十代目ッ、りんご飴がありますよ、お一ついかがですか?」
「あ、獄寺君、ありがとう……って、こら、ランボ! それは店の売り物だから手を付けちゃ駄目だよ! あーもー!」
「グハハ、ランボさん知らないんだもんね〜」
「ランボ! ダメ!」
「あー、ランボちゃんもイーピンちゃんも走らなくても夜店は逃げませんよ〜!」
「ツナ兄〜、僕わたあめ食べたいよー」
「フフ、皆楽しそう」
「あーあー、こりゃ収集付かねぇな……」
いつもこうだった。オレ達三人で行く予定だったのに気付いたらハルと笹川が当たり前のようにいて、チビ達が引っ付いて来てて、あっという間にしっちゃかめっちゃかになる。
そして皆バラバラに好き勝手するんだけど、最後の花火が打ち上げられる時間になったら自然といつもの場所に集まっていた。
川原の土手に皆して座り込んで少しの間、黙って花火を見上げる。
こんなに見やすい場所なのに、オレ達の他は殆ど人がいなくていつも不思議に思う。一度だけ小僧に何でだろうなって言ったら、ニヤッと笑って知らない方がいいぞと教えられた。
前のほうにハルと笹川、少し後ろでツナがランボ達を追いかけている。オレと獄寺はその様子を更に後ろから見ていた。決めてる訳じゃないのに最終的にはこうなってしまうんだから面白い。
オレが隣にいる獄寺をそっと覗き見たら、視線を感じて振り向いた獄寺と目が合った。その目を見てたら悪戯心が湧いてきて、後ろについた手を少し動かして親指で獄寺のそれをそっと撫でてみる。
そしたら物凄い目で睨まれて、想像通り過ぎてオレは声に出さなかったけど笑ってしまって、獄寺がもっと怒るかなと思ったけどそんなことはなかった。逆に怒りの表情を解いたかと思うと、獄寺に触れていた親指がキュッと握られる。誰になんて、今更だ。
そして今度はオレが驚いたような表情をする番だった。今が暗くて良かった。ひょっとしたらオレは真っ赤になってるかもしれなかったから。妙に頬が熱い。
そんなオレの様子を悪戯が成功した子供みたいな顔をしてニヤニヤと獄寺は眺めてて、オレは思わず顔を背けた。ちくしょう。
獄寺の視線から逃げるように反対側を向いていたけど、チリチリと視線だけは感じてて、思わず横目でチラッと獄寺を覗いてみる。そしてオレは固まった。
オレを出し抜いて嬉しかったのか暗いからと油断してたのかそれとも両方なのか。本当のところは分からないけどオレを見つめる少し細められた獄寺の眼は、凄く大事な、愛しいものを見る眼をしていた。
今すぐ抱きしめたい、二人になりたい。この時オレは初めて皆でいる時にそんなことを思った。
作品名:アカシアの樹で待ってて 作家名:高梨チナ