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アカシアの樹で待ってて

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 今となってはマネージャーのどこが良かったのかすら分からない。確かに可愛くて小さくてスタイルが良くて胸はでかかったけど。誰にも隠すことなく付き合えるって思ったけど。
 結局それすらオレは自分で望まなかったので意味はない。

 オレを最優先してくれるところも良いって思ったけど、優先させることと依存することは違うんだってことが、オレはようやく少しだけ分かった。


 オレはツナと屋上で話した日、高校に入って初めて自分の意思で部活を休んだ。
 先生に具合が良くなくてと説明したら、何も聞かれないで家でゆっくり休めと言われてしまって拍子抜けだった。うちの部活は運動部の中でも厳しいって有名で、よっぽどのことがない限りこんなことは許して貰えないから。
 それだけ最近のオレは目に見えて調子が悪かったということなんだろう、オレが自分から休むと言い出したことに少し安心しているようにも見えたくらいだ。

 部室を出たところでマネージャーに後ろから声をかけられて呼び止められたけど、オレは振り向かないままで一言ゴメンとだけ言って、そして、その足で獄寺のマンションへと向かった。
 背中から声が聞こえたけど、オレはそれでも振り返らなかった。


*


 寝ているかなと思ったけど部屋の電気は付いていて、オレは一度だけベルを鳴らした。
 今まで待ったどんな時間よりも長い時間だった。
 永遠の沈黙って感じられるぐらいの後、ドアの向こうで動く気配を感じて、ゆっくりと扉が開けられた。

「獄寺……」
「………………何しにきたんだテメェ」
 その声は昨日よりちゃんと出てたけど、少し頼りなかった。熱のせいか顔が赤くて、そのせいで余計頼りなく聞こえるのかもしれない。
 オレが言葉を捜していると、獄寺は立っているのがしんどいのかチラリとオレの荷物に目をやって部屋へと戻って行った。その足取りも覚束ない。これは入っていいってことだよな? オレは勝手にそう解釈しておじゃましますと言って部屋に入り、ドアに鍵をかけた。


「獄寺、なんか食った?」
「………………………………プリン食った」
「え、そんだけ?」
「ンだよ、悪ィかよ」
 玄関を入ってすぐのところにあるミニキッチンに持ってきた袋をドサリと置きながらオレは獄寺に聞いてみたんだけど、思った通りの答えが返ってきて呆れてしまう。自分でもダメだと思ってるんだろう、悪態をつきながらもどこかバツが悪そうだった。
 風邪で弱ってるせいか、ここ最近の冷たくて硬い空気も少し和らいでいる気がして、少しだけ風邪に感謝したくなった。獄寺は苦しい思いをしてるんだから、アレなんだけど。

「雑炊食べれる?」
「……………………食う」
 思ったよりも素直な答えが返ってきてオレは嬉しくなる。
 ぶっきらぼうにそう言うと獄寺はベッドに座って壁に背を凭れかけた姿勢のまま、煙草に火をつけた。良く見ると灰皿もベッドに置かれている。まぁ、雑誌を下にひいたりして多少は気にしてるようだけど。
 いつもだったらちゃんと換気扇の下で吸っているけど、立っているのは辛いんだろう。オレもそれについては特に何も言わないでおいた。

 一つしかないコンロに火を付けて持ってきた出汁を温めると、部屋の中に優しい匂いが広がって行く。
 家に帰って店から材料を持って来た時に一緒にくすねて来たこの出汁は、随分と前に獄寺が風邪をひいた時に雑炊を作ってえらく好評だったものだ。
 家が食べ物屋で良かったってこういう時に心底思う。これは今度、親父に何かしないといけないだろう。

 オレがキッチンでうろちょろとしているのをぼんやり眺めていた獄寺が声をかけてきた。

「お前は何しに来たんだよ」
「え、と、お見舞い……?」
「何で疑問系なんだよ」
 話をしたかったってのもあるけど、お見舞いって言うのだって本当だ。それに、ちゃんと栄養取って薬飲んで落ち着いた状態で話したいとも思う。
「何か話あんだろ。言えよ」
「え、飯食ってからでよくね?」
「食ったら眠くなるから、後でいい」
 なるべく先延ばしにしたいって思ってる心を挫くように告げられるけど、獄寺の言ってることは間違ってはいない。そして、だから早く済ませろという風にも取れて、何だか切ない。
「…………………………」
「……早く言えよ」
 無言のオレに焦れて獄寺が続きを促してくる。さっきまでの柔らかい空気はどこかに行ってしまったかのようだった。何となく獄寺はオレの言いたいことは分かってるんだろうと思う。だけど、オレだって今更引き下がる訳にはいかなかった。
「獄寺……オレ、オレやっぱヤダよ」
 ギュッとシャツの裾を握って、オレは俯いた。制服のズボンからはみ出した汚れた白い靴下が視界に入って、それだけで何だかたまらなくなる。
「今みたいなのは、嫌だ」
「……今更何言ってんだよ、あん時は何も言わなかったじゃねぇか」
「すげーいっぱい考えたけど、やっぱ嫌だって思ったんだよ!」
 静かな獄寺の声にオレは思わず声を荒げて、顔を上げると獄寺と目が合った。オレを見る獄寺の目は熱のせいで少し潤んではいたけど、オレなんかよりもよっぽど冷静な気がして、少し気圧される。
 感情をあまり揺らさないで、淡々と話す獄寺は、何だかオレの知ってる獄寺じゃない気がして、嫌だった。ここ最近ずっとこうだった。子供が駄々を捏ねるような感情なんだって自分でも分かったけど、オレには自分の感情なのにどうすることも出来ない。
 そんなオレを見て獄寺は溜め息を一つ付いて、オレはそれに過敏に反応してしまう。

「お前がイヤだっつっても、しょうがねぇだろ」
「……獄寺に好きな奴できたから?」
「…………こういうのは、自分の意思でどうこう出来るもんじゃねぇだろ」
 諭すように言って獄寺は短くなった煙草を灰皿に押し付けると新しい煙草に火を付けた。オレは無駄かなとは思いつつ換気扇のスイッチを入れると、ゴォォと機械的な音が想像よりも大きく響いた。すぐ傍で動いているのに、何だか酷く遠いところで鳴っているような気がする。
 オレが黙って獄寺を見つめていると、獄寺が口を開いた。
「それにお前だって、もうちゃんと彼女いんだろーが」
「いないよ」
 出ると思ってた話題はあっさりと獄寺から引き出されて、オレは間髪入れずに否定した。すると、今まで感情を動かすことがあまりなかった獄寺の表情が崩れて、不快そうに眉が寄せられる。
「はあー? 今更何言ってんだよ。これからか? それともまさかもう別れたのかよ」
「あの子とは、最初から付き合ってない。オレ、やっぱ獄寺でなきゃダメだ」
「……………………最低だな、テメェ」
 傍目からどう見えようと、これがオレの中の真実だった。
 案の定、獄寺から出てくる言葉は非難の色しかなかったけど、何でもないって風に扱われるよりはマシだった。
 オレは、ツナから貰った切り札を使うんだったら今しかないって確信する。
「………………………………ツナに聞いた、獄寺の、好きな奴のはなし」
「なっ!」
 弾かれたようにビクッと反応した獄寺は、咥えた煙草を落としそうになっていたけど、それは何とか堪えたようだった。
 オレは畳み掛けるように獄寺へと近付きながら言葉を続ける。