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アカシアの樹で待ってて

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「……別にお前の為に言った訳じゃねぇよ」
「でも、獄寺」
「オレは、オレの為にそう決めただけだ」
 獄寺はそう言うけど、それはどういうことだろう。ここ最近、獄寺がオレに言ってることは嘘ばっかりで、きっとその中には本当のことだってあるはずなのに、上手に隠されてしまってオレには探し出すことが出来ないでいる。
 オレが足りない脳味噌をフル回転させていると、獄寺がゆっくりと煙を吐き出してオレの変わりに話し始めた。
「――――――――確かに、オレが十代目に話したのは、お前のことだよ」
「じゃあ、」
「だからって元に戻れる訳じゃねぇし、だからこそ駄目なことだってあんだよ」
 オレには獄寺の言ってることが分からなかった。
 だって、獄寺は結局オレのことが好きで、ずっとオレのことだけを好きで居てくれたってことなんだよな? それでオレも獄寺のことが好きなんだ、何の問題があるって言うんだよ。確かにオレは横道に反れたりもしちゃったけど、ちゃんと最後にはこうして正しい答えに辿り着いている。
 顔に大きく分かりませんって書いてあったのかもしれない。獄寺はオレの顔を見ると小さく笑った。
「オレとお前じゃ根本的な考え方が違うんだから、分かんなくてもしょうがねぇよ」
「でも、それじゃやっぱりオレは納得できねぇよ」
 憮然として言うオレに獄寺はやっぱり表情を崩したままでオレに尋ねた。
「納得できりゃいいのか?」
「そうじゃねぇけど……でも、このままだと、オレ」
 さっき、獄寺を纏っていたものを取り除く手掛かりを掴んだ気がしたのに、いつの間にかまたそれは巧妙に隠されて見えなくなっていた。
 まだ何かが足りないのかもしれないけど、オレにはもう手札なんて残っていなくて、後は自分の思ってることを獄寺にぶつけるしか出来なかった。



「オレさ、お前と一緒に居てけっこう変わったと思わねぇ?」
「え?」
 急に話があらぬ方向に飛んで戸惑うけど、これは獄寺がちゃんと説明してくれるんだって何となく分かったから、オレは大人しく記憶を遡って獄寺の言葉の意味を考える。
 ずっと一緒に居たからあんまり分からなかったけど、離れてみたらそれは酷く目に付いた。最近ずっと感じていたことだ。ツナだって同じようなことを言っていたし。
 明確な区切りという物はなかった気がするけど、最初と最後を比べてみれば全然違っていて、オレは驚いていたのだ。
「確かに……落ち着いた、かな。良く笑うようになったし、」
「お前にはそう見えんのか」
「ツナも同じようなこと言ってたぜ」
「そっか……」
 特に肯定する訳でも否定する訳でもない獄寺の口調からは、本人がどう思っているのかは伺えなかった。
「自分でも、ふとした時にオレ変わったなって思ったんだよ。それはやっぱり十代目の御蔭ってこともあるけど、お前のことだってでかかったんだ……ちょっと、ビビった」
 自分のことなのにまるで他人事のように、遠くのことを話すような獄寺は何だか不思議な感じがしたけど、最後の言葉には少しの自嘲が含まれていた。
「オレは十代目がいるだけで生きる意味が出来たけど、十代目がオレのことを少しは必要としてくれて、友達だっておっしゃって下さって」
 ツナのことを話す獄寺の表情は今までにない程穏やかで、幸せそうで、オレが嫉妬する領域を超えているような気がした。
「あと、十代目の横にはお前がいて……オレには縁がねぇって思ってたことがいっぱいあった」
「…………獄寺」
「十代目がいてお前がいて、三人でいるのはすげー楽しかったし、それとは別にお前はオレの家に転がり込んで来たりもして、何か良かった。こういうのも良いかもなって、一人じゃなくてもいいんだなって思ったりしたんだよ」
 ゆっくりと語られる獄寺の本心をオレは一つだって逃がすもんかという気持ちで聞いていた。鬼気迫る顔のオレを見て獄寺は緩く笑うと、あまり吸っていない短くなった煙草を灰皿へと押し付けた。
「で、ずっとこのままだといいなぁなんて漠然と思って、実際このままだって信じてた時に、お前がマネージャーとイイ感じなのに気付いたんだよ」
 心臓をギュッと握られた思いだった。獄寺はやっぱり噂だけじゃなくて、ちゃんとオレのことを見て気付いてたんだろう。ひょっとしたら、オレがまだ何とも思ってなかった頃から見抜いていたのかもしれない。
「幸せな状態が続かねぇってオレは良く知ってたはずなのに、日本に来てから与えられてたのが心地良いものばっかりだったから、オレはそんなことすっかり忘れてたんだ」
 オレは春に十七になったばっかりで、獄寺はまだ誕生日が来ていないので十六歳だった。この年でこんなことが当たり前のように言える獄寺に、オレは何て言っていいか分からないし、どんな気持ちを抱いていいのかも分からなかった。分からないままオレの心は嵐のようにごうごうと唸りを上げていた。
 ただ、何でもないことのように話す獄寺の言葉を聞いていて、オレは獄寺にとって一番してはいけないことをしてしまったんだって、ここに来てようやく分かった。