アカシアの樹で待ってて
いつもだったら楽しいはずのツナと獄寺との時間は、オレを何だかやるせない気持ちにさせていた。
二人と別れた後、部活に顔を出してもやっぱり気分は晴れないことが多くて、何となく歯車が噛み合ってないような、もどかしい気持ちをオレは味わっていた。
それでも獄寺とは以前に比べれば接触は格段に少ないのでそこまで大きなダメージを負うことはなかったけど、確実にオレの中に蓄積して行くのを感じていた。
それに比例して、心に開いた穴を埋めるように例のマネージャーとのメールやデートの回数は増えて行って、何だかこれは違うんじゃねぇのって自分でも思うようになってたけど、オレはなるべくそこからは目を逸らし続けてた。
会いたいからなのか淋しいからなのか、オレにはもう良く分からなくなっていた、そんな時だった。両親の帰りが遅いから家で夕飯を食べて行かないかというベタな誘いにオレが乗ったのは。
セックスはそりゃ気持ち良かったけど、それだけだった。
始まりもベタだったけど、その後の流れも物凄く順当だったと思う。オレはそんなに経験があるって訳じゃないけど、順当な流れとはこういうものだなと感じるぐらいにはお約束通りだった。
家に行って手料理を食べて部屋に行って押し倒してセックスをした。
オレにとっては流れるようだったけど、きっと相手はドキドキしっぱなしだったに違いない。オレにはその様子が手に取るように分かってしまっていた。
相手は女の子で、丁寧に扱わないといけない対象だっていうのは分かってたし、行為自体はちゃんと優しく出来たと思う。けど相手は多分初めてっぽくて、おまけに女の子なのでイッたかどうかも分かりにくくてこれで満足なのかなぁとどこか冷めた頭で思ったりもした。
甘い声を出してオレにされるがままになって、揺さぶられながら涙を流す姿を見ても身体だけが熱くなって、オレの頭は冴えて行くばかりだった。
女の子の中は温かかくてオレの体温と交じり合うようだったのに、その中で出した途端、急速にオレの中の熱が引いて行って、まるで精子と一緒にオレの中の熱まで持って行かれたようだった。
挿れたまま(もちろんゴムは付けている)オレの腕の中でぐったりする顔を見て一番に思ったことが帰りたいってことなんだからオレは大概最低な奴だと思う。
だから、流石にそんなことを言う訳にもいかないが、両親の帰宅というタイムリミットが近付いていたことを理由に、そそくさとオレは退散したのだ。
まぁ、この時までに付き合うだの付き合わないだのという話は一切なかった訳だけど、メールしてデートしてキスしてセックスすりゃ付き合ってるって錯覚されてもしょうがないのかもしれな、とはオレも思います。
そんなこんなでこの次の日から、オレを更に憂鬱にさせる出来事が起こるようになったのだ。
今までは部活の終わりなんかに、皆に見つからないように話したり一緒に帰ったりする程度だったマネージャーが、急に大胆になった。
流石にオレのクラスまで押しかけて来たりはしなかったけど、部活で会話を交わす時なんかにやたらと腕とかをベタベタ触ってくるようにもなっていた。
今はまだ一方的な感じに見えてるかもしれないけど、噂になるのも時間の問題かもしれないと憂鬱な気持ちになる。そして、別にオレ達は付き合ってる訳じゃないんだけどという気持ちが強く湧き上がってくるのを押さえられなかった。
そんなたかが一回程度で彼女面とか勘弁して欲しい、という定番の科白が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
一回ヤッて飽きるとか男として最低だとかオレは思ってたクチなんだけど、今は物凄くそういう気持ちが分かってしまって参った。別にオレは遊んだつもりはなかったけど、結果的にはそう見えるんだろうなと自分でも思う。
オレ達の状態は、一発ヤって冷めた男と処女を食われてうっかり本気モードに火が付いた女という表現がピタリと当てはまっていた。笑うに笑えない。
これは獄寺どころかツナにさえ言えそうにない事態だった。
オレは誰も見てないことを確認すると、はぁぁぁと声に出して溜め息を付いた。
作品名:アカシアの樹で待ってて 作家名:高梨チナ