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アカシアの樹で待ってて

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 その日、獄寺は学校に来なかった。
 ツナに聞いた話では、風邪を引いたということだったけど、一瞬、オレに会いたくなくて仮病なんじゃねぇのって考えたりもした。だけど朝電話したら声もガラガラで殆ど出てなかったんだよと言われて、そりゃそうかと納得する。フラれたのはオレの方なんだし獄寺は既にオレに対するスタンスを決めてしまっていたので、気まずくなって学校を休むんだったらオレの方だろう。


 だけどその日は一日中、授業を受けてても上の空、部活をしててもどこか気持ちは晴れなくて、オレは学校からの帰り道、勇気を振り絞って携帯に登録されていた短縮ダイヤルをプッシュした。
「…………もしもし」
「…………………………ん、だ。 まえ、か」
 長い沈黙の後、掠れに掠れた声で辛うじて返事を寄越された。オレはその声を聞いてしまったら、電話して何言うんだよとか未練がましいって思われたらどうしようとかやっぱりオレに会いたくないだけなのかなとか色々と考えていたことが全部吹っ飛んで、勝手に口が動いていた。
「風邪だって? お前大丈夫かよ。動けねぇんじゃねぇの。薬とか持ってく?」
「……いい、まえのがある」
 前に獄寺が風邪ひいた時にオレが持ち込んだ薬のことだろうか。確かにまだ残ってた気はするけど。
「薬はあっても食う物とかないんだろ、どうせ」
「いい。くんな」
「でも、」
「くんな」
 以前だったらこんな風に言われても無理やり押しかけてただろう。というより、オレ達がまだ普通に一緒に居た頃だったら、獄寺はこんな風には言わなかった。こういう突き放した言い方は、何だか出会った頃を思い出すようだった。
 確かに獄寺は素直じゃないし、オレを頼ったりとかあんまりしてくれなくて、それが不満で淋しかったりもしてたけど、最近では獄寺なりに甘えてくれたりしてたんだって今更になって思い知る。心に走る痛みの原因は良く分からないけど、オレは何だか泣きそうだった。
 何か言いたかったのに、言うべき言葉が見つからなくて迷子になったみたいだった。唇を噛み締めて襲ってくる衝動に耐えていると、携帯の向こうからひっそりと声がした。
「……………………うつるから、くんな」
「え」
「しあい、あんだろーが。しばらく休む……、からじゅうだいめにも、言っとけ」
 その言葉を最後に、ブツッと一方的に切られてしまった。
「ええと……」
 会いたくないとか、そういうんじゃなくて風邪がうつるから来るなってことなのかな、これは。
 声を聞いただけでツナに言ったことは嘘じゃなかったって分かったし、しゃべることすら辛そうだったのに、結局獄寺がオレにくれたのは気遣いだった。例え言葉はつれなくても、あれは優しさという類のものだ。
 それなのにオレはと言えば自分のことばっかりで、酷い自惚れに嫌気がさした。

 獄寺だってオレのことが嫌いになった訳じゃないんだって、今ので分かってしまった。むしろ真摯にオレと向き合ってくれてたのは獄寺の方だったのかもしれない。
 だけど、今のオレにとって獄寺の優しさは涙を誘うばかりになってしまってて、オレはどうしていいか分からない。どうしようもなく、胸が苦しかった。