永遠に失われしもの 第7章
劇場が暗くなり、緞帳が開くと、
漆黒の執事は、すっとシエルから離れ、
シエルの席の後方で、気配を殺して立っている。
大いなる拍手とともに、
壇上に指揮者とソリストが現れ、
調弦が済むと、ひとときの静寂が訪れた。
第一楽章 Allegro non troppo
不安定なオーケストラの調べから始まり、
ソリストの情熱的な第一テーマが、
冒頭すぐに演奏される。
「--
それでは、
始めることに致しましょうか?」
恐怖に目を見開くエット-レ卿は、
喉を潰され、悲鳴をあげたくとも
ヒューヒューという風の音しか出せない。
「速く、でも速すぎず--」
「まずは、
私のぼっちゃんを
淫らな目で見つめた貴方の瞳―」
漆黒の悪魔の針金のように
鋭い爪の先が、卿の眼をえぐる。
「次に
私のぼっちゃんを
撫で回した貴方の猥褻なその手-」
寸断された卿の手首が、床に転がる。
「最後に
私のぼっちゃんを
いやらしく舐めまわしたその舌-」
エット-レ卿は、大量の血を吐きながら、
膝から崩れ落ち、倒れた。
セバスチャンはゆっくり卿に近づくと、
その胸にかけられたクルスの下にある、
もう一本のペンダントの金の鎖を手繰り、
そのヘッドにある金の鍵をしばし眺め、
手早く外した。
作品名:永遠に失われしもの 第7章 作家名:くろ