永遠に失われしもの 第7章
第二楽章 quasi Allegretto
一転して、穏やかな前奏から、
官能的な明るい主旋律が奏でられる。
「見つけたヮ!」
執務室の窓の外に紅い影がちらつき、
真紅の長い髪を靡かせて、
グレルが腰に手を当てて立っている。
「ィイわァ~ッ
鮮血の中にたたずむセバスちゃん
最高ッ!」
と言いながら、グレルは
セバスチャンに駆け寄り、
抱きつこうとするが、かわされる。
「今度は貴方ですか」
セバスチャンは、グレルを一瞥すると
大きなため息をつき、眉間に手を当てた。
「グレルさん--
何ですか?その格好--
何やら見覚えがある執事服ですが」
「ウフ、こうしてアタシ、
セバスチャンに包まれてるノ、幸せ」
グレルはセバスチャンの背中に擦り寄る。
「返してください!
あ、やっぱりいいです。
燃やしてください」
「燃やすわけないじゃナイ・・
一生着続けるノ、
このままお嫁に行ってもいいクライ」
「やっぱり返してください。
私が埋めます」
グレルはもじもじしながら、
セバスちゃんの腕をつかみ、
翡翠色の眼でセバスチャンの顔を
のぞきこみながら、言った。
「てかサ~、チョット聞きたい事があって
ココまで追いかけて来たんだけどォ~」
「またですか??
今度は何ですか?」
グレルの腕を困ったような顔をして
振り解くセバスチャン。
「セバスちゃんサ~、ホントッの事教えてネ
アノ・・・
ガキと、もしかしてヤッちゃった?」
「は??」
セバスチャンの頭の中は
一瞬真っ白になった。
「ダ・カ・ラ・・・
寝ちゃったかっていうか・・・
アーもうこんな事言わせないでェ~~」
「---
いえ、普通に
何も言わなければいいと思います」
「ダメ!今日という今日は逃さないワ!
真相を聞いてからじゃないと・・」
「と?」
「今夜寝付けなくなっちゃゥ!」
「一生寝なくていいです」
「エ!それって今夜は寝かさいナイョ・・
とかそういう意味?」
「多分違います」
「だってサァ~、アタシ見ちゃったの。
あのガキのベッドに・・血のしみが・・
あれって、初夜のガキの処・・・」
「あれは私の血です」
「えええエエ~~~、ソウなの???
そっちなの?そういう趣味だったの?」
「目眩がしてきました。
いっぺん殺していいですか?」
「イャ~ン、セバスちゃんならいつでも
OKよ!」
と、グレルのデスサイズである
チェーンソーが轟音を立てて、
動き始める。
「はぁ、せっかくエットーレ卿に
静かに死んでもらったのに、
その音で台無しですね」
ひときわ大きなため息をついた後、
セバスチャンは、グレルの背後に回った。
そして、グレルの首をつかみ、
耳元に顔を寄せて、ささやいた。
「魂は、まだ抜き取ってないんで、
グレルさん、後始末お願いしますね。
それでは急いでますので、
これで失礼させていただきます。
これからデートなもので。
グレルさんには、
今度埋め合わせいたしますから」
頬を真っ赤に上気させたグレルが、
セバスチャンの方を振り向くと、
もうそこには彼はいなかった。
作品名:永遠に失われしもの 第7章 作家名:くろ