永遠に失われしもの 第7章
第三楽章 Molto moderato e maestoso
重々しいヴァイオリン独奏からはじまり、
Allegro non troppo の第一テーマへ
すっかり夕闇に埋もれつつある街の空に、
屋根から屋根へと、黒い影が移動する。
--私に巣くう闇
いや、私こそが闇
悪魔が存在する空間は
いわば永久機関のようなもの
全てが完璧に、恒久的に循環する
貴方は闇に住まう者に成り下がっても
まだ光を追い求める
それは人間であったときの
魂の欲求なのか
貴方自身の存在が求めるものなのか
闇を霧散させるほどに
光を求め続ける貴方--
悪魔が代償のない契約を守るとでも?
サンピエトロ聖堂の鐘が鳴り渡る。
枢機卿の死が確認されたのだろう。
何事があったのかと、家々の外に出て
鐘の音を聞く人々。
ヴァチカン衛兵はせわしなく配置を変え、
ローマのあちこちに、
警察の非常線が張られる
黒い影は、シエルの乗る街馬車へと近づき
中に消えていった。
作品名:永遠に失われしもの 第7章 作家名:くろ