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輪が廻る

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聞いてねえし。どいつもこいつも人使い荒いよなァ、とつぶやいてみたけれど、この部屋の主は聞く耳持たずっていうか俺の存在を気に留めてすらいないし、ウチの主は基本的に人の話が聞けないタイプの人間なので俺様の発する言葉なんかにそもそも意味ができたことなんてないのだった。ていうか俺様のまわり言葉の通じない人間ばっかりじゃね?なんで皆まともに会話しないのよ。皆まず言葉より先に手ェ出てるし。皆もっとちゃんと会話しようよ。なんのためにこうして言葉があると思って…じゃなくて。今はそんなことよりなにより、
「…暇なんですけど」
「……あ?」
通じた。
「暇。暇です。スッゴイ暇。ねーやっぱ俺帰って、」
「ダメだ」
「…ですよねー」
「つーかてめー忍のくせにうっせーんだよ。んな暇なら寝てろ」
「え?いいの?実際のとこメチャメチャ眠いんだけどさ…えっ何、起こしてくれる感じ?」
「起こしてくれる感じだ、いいから寝ろ、うぜーな」
人使う気マンマンのくせにうぜーとはよく言ったもんだと思うけど寝さしてくれるならありがたい。寝てる間に殺される、なんてことは俺様に限ってありえないし(べつに自信過剰なわけでもないけど)、向こうがいいと言うなら寝ちゃおう。最近任務でほとんど睡眠とれてないんだ。体力バカの主たちのせいでまじで過労死しそう。
「んじゃ、お言葉に甘えてー。おやすみなさーい」
「おう」


ふと気配を感じて目を覚ました。あけた瞳に映ったのは顔の半分を眼帯で覆われた荒削りながら端正な顔立ちだった。こんな近くまで人が寄ってきてるのに気づかないなんて俺様にしてはめずらしい失態だ。よっぽど疲れが溜まっていたらしい。この男にしてはめずらしく、いつも振り撒いている殺意が感じられなかったからかもしれない。そんなことをうすぼんやりした頭で考えながら「…終わった?」と聞くと、男は「ああ」と言いながらしかし、書き終えた文を出すこともなく、俺様の顔を眺めていた。
「…何、俺様の顔になんかついてる?」
まだすこし夢うつつのままの気分で聞いてみると、答えはないまま男の顔がしずかに近づいてきてくちびるが触れた。荒れたくちびるが俺様のくちびるをやわらかく食んで、離れていく。さすがに慌てて起き上がって「あっれ、旦那ってそっちもいける口だったっけ?」なんてふざけたフリで聞いてやると、「ハッ警戒してんじゃねえよ忍ごときが」と鼻で笑われた。
尖った犬歯が覗いてウチの旦那とは違う類の獰猛さがちらりと垣間見える。
「…俺様は仕事以外ではそういうのはナシって決めてんの。終わったんならさっさと文よこしなよ」
「つれねーこと言うなよ。どうせもうそろそろ日が暮れる。アンタにとっちゃあ移動どきかもしれねーが、今持ってったって真田のとこに届く頃にゃあもう真夜中だ。俺と楽しいことでもしようぜ」
「…あんた、こういうときホンットにおやじくさいよね……ほんとに俺様より年下なの?」
「うるせーな、ごちゃごちゃ言わずに付き合えよ忍」
はあ、とためいきを吐きながら見上げると相手の瞳がぎらぎらと光っているのが見えた。ああ、そうだこの瞳だ。この瞳がいつもウチの旦那を奪っていく。彼の心をさらっていく。こんな暴力男のどこがそんなにいいのかなんて俺にはきっと一生わからないんだろう。ただ彼に仕える限り俺とこの男との繋がりもきっとなくなることはなくて、そして今俺は、ただそれがとても悔しいってだけだ。
「…せっかく付き合ってあげるんだから、楽しませてよね」
「誰にモノ言ってんだ、ああ?」
当たり前だろ、と猛禽の笑みを見せて男は俺の腕を引き衣服の中にその節の立った指を差し入れた。俺はそれを見て微笑み瞳を閉じる。叶うことなら、彼が惹かれるこの男のよさってヤツが、俺様にもわかるようにと願いながら。



作品名:輪が廻る 作家名:坂下から