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だぶるおー 天上国4

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 兵士たちを蹴散らして来たが、兵士たちも、その馬に驚いて反撃できない。誰もが噂に聞いたことがある伝説の馬の姿だったからだ。灰色の額に星がある馬が二頭。独特の紋章を拝した鞍をつけているソレスタルビーイングの馬だ。ソレスタルビーイングに侵攻しようとしたユニオン軍は、その馬たちに跨った騎士によって退けられた。甲冑の中の姿まではわからないが、馬は語り草になっている。漆黒の馬は、エクシア。栗毛に額に星の二頭の馬が、キュリオスとアリオス。ベージュ色に黒い鬣の二頭の馬は、ヴァーチェとセラビィム。それらだけが、何百の兵士の前に現れて、ユニオン軍を叩きのめした。それは、すでに二十年ほど前のことだ。それとそっくりで名前まで同じとなれば、兵士も用意に近づけない。そして、自分たちの隊長が、簡単に投げ飛ばされているのも怖い光景だ。
「ケルビィム、兵士を押し返しなさい。すぐに、カティーが来るわ。デュナメス、殺してはダメよ。」
 アニューは、そう命じると、ケルビィムから飛び降りて、ニールの前にやってくる。とっても優雅に微笑んでいる。
「アニュー、助けてもらったんだ。無茶しないでくれ。」
 ニールが起き上がって、そう頼むのに、こくんと頷いた。そして、ティエリアとは逆からベッドに近寄り、剣を抜いた。
「義兄上様、お久しぶりです。ライルが心配で夜も碌に眠れませんでしたのよ? いい加減に大人しくなさってくださいね。」
 と、言うのと同時に、ニールの腹に剣を刺しこんだ。その勢いで倒れこんだニールに、更に、剣を深く突き立ててベッドへ縫い付ける。
「アニューッッ。」
「黙りなさい、ティエリア。・・・・・義兄上様、さあ、これで遠慮なく呼べますでしょ? 早くお呼びにならないと、さらに剣を横に引きますよ。」
 優雅に微笑んだままアニューは、そう言って、剣に力を込める。その様子に、馬に行く手を阻まれていたグラハムが、力を増大させた。
「姫に何をするっっ。」
 目の前の馬に意識を集中させると、その気迫に馬もたじろいだ。その隙を抜けて、先にジョシュアが飛び出る。
「ロックオンッッ。」
 その声で、ロックオンはティエリアとアニューに、「ジョシュアに怪我をさせるな。」 と、叫ぶ。しかし、その後の、「姫、私が助けけるぞぉ。」 には、「あれは近づけるな。」 と、冷静に命じている辺り、さすがに、あのおかしな言動には向き合いたくないらしい。養い子のティエリアは、ちゃんと、その意図を理解して、ジョシュアの足は止めさせただけだが、グラハムは扉の向うへ魔法力で放り投げた。
「・・・アニュー・・・痛いんだが? 」
「痛ければ、早く、お呼びなさい。そろそろ、カティーも参りますよ? 」
 ベッドに縫い付けられているロックオンことニールは、痛いと呻きつつ苦笑している。アニューは、完全な妖精だから、人間の善悪での判断基準は持たないし、「癒し」の魔法力も使えるから、いざとなれば、それを使う。だから、義理の兄の腹に剣を突き立てても罪悪感なんてものはない。
「・・・・マリナ姫がな・・・・」
「マリナが怒ってました。いい加減にして欲しいと。王は、すでに王妃を決めて久しいのに、なぜ、当て馬のような真似をされなければならないのかと。」
「・・・俺は仮だ。刹那には、もっとな・・・いい人がさ。・・・だいたい、あいつは・・・」
「王にディランディーの能力なんて効果はありません。最初から、王は王妃だけです。」
「ニール、お願いだから呼んでください。」
 ティエリアは、どんどん広がっていく紅い色に、顔色が悪くなっていく。頼むから、こういう事態に陥る前に悔い改めてくれ、と、言いたい。


 足止めされて動けないジョシュアは、近くで、その会話を聞いていた。ディランディーという名は聞いた覚えがあるし、馬もそのつけている紋章も、全て教えられたものだ。ソレスタルビーイングという国のものだ。ユニオンが侵攻しようとしてできなかった国のものだ。
「てか、王妃ぃぃぃ? 」
 いろいろとツッコミどころは満載だが、まず、ツッコむべきは、そこだ。どう聞いても、ロックオンが王妃と聞こえるのだ。
「そうだ。ニールは、天上の城の王妃だ。・・・ニール、助けてくれたのは、この人ですか? 」
 その叫びに答えたのは、ティエリアだ。助けてくれた相手なら、礼ぐらいは言ってしかるべきだ、と、思った。
「・・・いや・・・助けてくれたのは、あっちのほうだが・・・・いろいろと気を遣って話し相手してくれたのは・・・ジョシュアのほうなんだ。」
「それでは、お礼は、どちらに? 」
「・・・両方・・・」
 そんなのんきな会話をしている場合だろうか、と、ジョシュアのほうが心配するくらいに紅い染みは広がっている。そして、さらに、ドカーンと派手な音がして、さらに、人と馬が増えた。
「おい、アニュー。それはやりすぎだ。」
 馬から下りたコーラサワーが、アニューに抗議する。しかし、もう一方は、「ニール、あまり頑迷に拒むなら、私の剣もお見舞いするぞ。」 と、脅しつつやってくる。捜索に出ていたカティーとコーラサワーが到着した。
「・・・カティーねーさん・・・」
「おまえが強情を張るから、こういうことになるんだ。いい加減、素直になれ。」
「カティーさん、お願いします。私ごときでは、義兄上様は呼んでくれません。」
 しょうがない、と、カティーが自分の腰に在る剣を、すらりと抜く。アニューのは細い剣だが、カティーのは軍人らしい大ぶりの剣だ。さすがに、これは痛いので、ニールも、うっと詰まっている。アニューも鬼ではないから急所は外してくれている。出血はしているが、それも剣を押さえつけることで、止血にもなっているのだ。
「ニール、諦めろ。王は王妃しかいらないんだ。マリナ姫なんぞ、どうでもいいと思っているぞ。」
「・・・俺は王妃じゃない・・・」
「まだ言うか? 指名されて数十年も待たせて、その間に、王が浮気したことがあるか? それだけでも、おまえが王妃だという証になっているだろうが。」
 刹那が即位してから、一度も他の女性を寝所に侍らせたことはない。ニールが城にいる時なんか、同じ部屋で寝起きしている。
「まあ、いろいろと思うことはあるだろうが・・・・そこまで愛されて望まれるなんて、絶対に無いぞ? いい加減、答えてやってくれ。」
「・・・・カティーねーさん・・・」
「わかることはわかるが、それも・・・まあ、私が言うことではないが・・・慣れるらしいから・・・」
 カティーは言い辛そうに、そう言うと、アニューと同じように剣を突きつける。顔はまずいだろうと、太ももに斬りつける。グラハムやジョシュア、その場の兵士たちには信じられない光景だ。
「なぜ、きさまたちは、私の姫を傷つけるのだっっ。」
 グラハムが、その剣を魔法力で引き抜こうとするのだが、どっこい、こちらのほうが力は上だ。その程度で小賢しいと、アニューが腕を一振りするだけで、力は相殺される。
「義兄上様、もしかして浮気されてました? 」
「・・・してない・・・勝手に暴走されてるんだ・・・」
「それでは足の腱を切って、ここに置き去りにいたしましょうか? ここで嬲り者にされるのと、王に愛されるのと、どちらかお選びください。」
作品名:だぶるおー 天上国4 作家名:篠義