キスしたい!!
Side:T
今日の栄口はおかしい。
なんだか俺に対してよそよそしいし、目が合っても不安そうな顔をする。
いつもなら目が合うと赤くなって、だけどその後に俺が大好きな笑顔をくれるのに。
「今日は送ってくれなくていいよ。」
「なんで?」
「だって練習で疲れてるし、もう遅いし…」
そう言って目を逸らすけどウソってわかってる。
今日ずっと気になってたんだ。ぜってぇ逃がさねぇ。
手首を掴むと、同時にビクッと身体が揺れて目が合う。
「栄口ウソ言ってるだろ。ホントの理由教えて?」
なるべく優しく言ったけど、栄口は不安そうに俺を見るだけだった。
「もしかして俺が原因?だったら、言ってくれないと俺バカだからわかんねぇ。」
栄口の目見つけてじっと待つ、すると、観念したのか、栄口が口を開いた。
「…不満があるのは田島の方だろ?」
ぽつりと呟かれた言葉に、俺は首を傾げた。
「俺は不満なんて一個もねぇよ。」
「だって…!」
そのまま俯いてしまった栄口を引き寄せてそのまま俺の腕におさめる。
こうすると話しやすいって前言ってた。
「なんでもいいから言ってみ?俺何した?」
すると栄口はシャツの胸元をキュッと掴んで、ポソポソと話し始めた。
「最近、田島が苦しそうな顔してるから気になってて、それがオレのせいみたいだから…」
「俺苦しい顔してた?」
尋ねるとコクンと首だけが縦に振れる。
だけど、俺には栄口に不満なんて考えられなくて、むしろ俺は栄口のこと好きすぎて…
「あぁそっか」
そう呟くと、不安そうに栄口が顔を上げた。顔上げられると、俺の方が目線低くなって嫌なんだけどな…。
覗き込むように、だけどしっかりと目を見つめて言った。
Side:S
「俺栄口に対して不満は一個もないけど、我慢してたことがある。」
真剣な目をして言われて、これから言われることは不安なのに、違う意味でドキドキしてしまう。
「な…何?」
そっと聞いてみると、田島は真剣な顔のまま話した。
「俺栄口とちゅーしたい。」
「…」
「…?」
「はぁ!?」
「あれ?伝わんなかった?じゃあもう一度言う!俺さか――」
「ちょ!ちょっ!!言わなくていいから!!」
慌てて手で口を塞いで止めると、田島は不満そうにまだ口をモゴモゴと動かしている。
なんだ…ホッとしたような呆れたような…てかちゅーって…考えただけでも恥ずかしくてムリ…
だけど、
まだ不満そうな顔してこちらを見る田島。
今だから呆れて笑っていられるけど、もしホントに不満があって嫌われてたら…
「…田島」
「なんだよ。」
オレの反応が気に入らなかったらしく、少し不貞腐れてるようだ。
そんな姿が可愛くてやっぱり好きだなって思った。
「オレ、田島がオレになんか不満があって、嫌われたんじゃないかって思ってた。だから負担かけないようにしなきゃって思ったんだ。」
「そんなこ――」
田島が何か言いかけたところに指で止めて、そのまま頬に唇をあてた。
「!?」
「でも、理由がわかって良かった。オレ、田島に嫌われたらって思ったら怖くて仕方なかった。オレのこと想って我慢しててくれてありがとう。」
自分がやったことが恥ずかしくなって、逃げ出したいくらいだけど、まだ一番言いたいこと言ってない…
オレは一つ大きく息を吸った。