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だぶるおー 天上国 王妃の日常1

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「だいたい、ニールが仕事放棄してるからの騒ぎだ。ここは、責任とらせろ。」
 アレルヤとハレルヤも、そう勧める。ビリーは、ほとんどニールと接触していないから、たらされていないのだ。
「ちょうど午後から、その教授とわしとおまえで孤児院の設計の打ち合わせをするんじゃろ? その時にでも、ニールを連れて来い。」
 天上の城の王立技術院長のイアン・ヴァスティが、そう取り成すと、むう、と、刹那は口をへの字に曲げたまま、「わかった。」 と、だけ頷いた。
「俺、ちょっと兄さんとこへ行って来る。」
 やっぱり気になるライルは、双子の兄のところへと歩き出す。とはいえ、そこは王の寝室だったりするが、咎められることはない。さすがに、夜は、こちらが自粛して近寄らないが、日中はオープンな場所だ。
「俺も行くぞ、ライル。」
 ティエリアも、ばたばたと後を追う。このふたり、ブラコンファザコンコンビだから、こと、ニールに関しては煩い。
「あの、刹那。ニールは着替えとかさせたんだろうね? 」
 しどけない格好は、さすがにまずかろうと、アレルヤが確認すると、「問題ない。」 と、返事が来た。




 滞在一ヶ月のジョシュアは、ようやく城の間取りをだいたい把握したところだ。王妃の護衛ということで、王妃の私室近くに部屋を貰っているのだが、その王妃が自室に帰ってこないから、護衛が出向いて護衛というか話し相手というかをするなんてことになっている。当初は、王の寝室が把握できなくて迷子にもなっていたが、ここんところは、間違いなく辿り着けるようになった。コンコンとノックすると、静かに扉が開いた。そこは、控えの間だ。寝室は、さらに、ふたつ奥になる。
「王妃は、まだ寝てるぜ。」
「あんた、まだお怒りは解けないのか? 」
「当分、無理だろうよ。ちびが本気で怒っちまったからな。まあ、入れ。」
 執事姿のアリーが顎で室内へ誘う。当初、本物の執事だと思っていたら王の守護精霊だと聞いて、びっくりした。ふだんは汚いおっさんなんだよ、と、ニールが教えてくれて、それで本物じゃないと判明したほどだ。今のところ、ジョシュアは仕事らしい仕事はしていない。なんせ護衛対象が、城から出ないのだから護衛の用なんてないから、剣の訓練を、軍馬管理者のラッセや、兵器管理者のリヒティ、軍事顧問のセルゲイあたりとやっているぐらいのことだ。
「生きてるか? うちの王妃様は。」
「微妙だな。今日は一日起きないだろうよ。ああ、おまえ、悪いが護衛してくれるか? デュナメスがキレそうなんで、外へ連れ出すからよ。」
 ニールの馬であるデュナメスは、馬だが「ニールは俺の嫁」 と、宣言するほどに惚れこんでいるので、一日に一度は顔を見せないとキレて馬房を破壊して城内まで乗り込んでくる。
「え? ニールは寝てるんだろ。」
「日光浴がてら庭に寝かせておきゃいい。」
 ほれ、行くぞ、と、アリーは寝室へ案内する。まずは、ジョシュアを城の中庭に単独で飛ばす。そこには、すでにアリーから連絡されて待機しているデュナメスがいた。すぐに、ニールを運んできたアリーも現れる。
「ほらよ、おまえの女房だ。」
 草地に転がすのかと思いきゃ、ちゃんと毛布とクッションも配置している。木陰になりそうな場所に席をしつらえて下ろしている。デュナメスは、そこへいそいそと寄り添うように座り込む。
「あれ、夕方まで護衛すんのか? 」
「適当でいい。適当で。」
 どっこいしょとアリーも近くへ座り込んで、いきなり昼間から酒瓶を出している。水分ぐらいは摂らせておくか、と、ニールにもエールを用意して飲ませている。ぼんやりと目を覚ましたらしいので、「いいから飲んだら寝てろ。」 と、宥めて、また横にした。
「あんたは、王の守護精霊なんだろ? ニールにも親切だけど、守護対象になってんのか? アリー。」
 戻って来たアリーに、素朴な疑問を問いかけてみる。本来、守護精霊なんてものは、守護対象は一人のはずだ。だが、見ている限り、アリーはニールにも親切だ。
「たらされたんでな。」
「はあ? ニールのたらし能力って、人間だけじゃないのか? 」
「ちげぇーな。あいつのは、意思のある生き物のオスならたらせるんじゃないか。ま、一部、おまえみたいな例外もあるがな。俺はダブルでたらされてるからな。もう取り返しはつかないんだ。」
「それって、ライルとニール? 」
「いや、先代とニールだ。昔、あいつの親父にもやられてるんだ。」
「親父? 」
 百年以上前のことだけどな、と、アリーは懐かしそうに空を見上げた。刹那が住んでいたオアシスは、元は刹那の一族がたくさん暮らしていた。外敵から護っていたのは、もちろんアリーだ。過去の最初の因縁により、アリーは一族の守護をしていた。とはいっても、精霊だから悪いものが現れたら、叩き殺すぐらいのことだ。オアシスは、もっと広くて泉も何箇所かあった。だが、地脈が変化して、徐々に泉は枯れてしまった。そこで、一族は移住を決意した。直系の一家だけは居残ることになったが、それ以外は近くの大きなオアシスへと移り住んだ。その移動に際して、護衛をしてアリーも、一時、オアシスを離れたのだ。それがまずかった。その隙を突かれて、刹那の父親と母親は殺された。母親が隠した刹那だけは、辛うじて生き残ったが、アリーが戻った時にはふたりは事切れていた。荒らしたのは、遊牧民の一族のものだ。それらは、完膚なきまで根絶やしにしたが、死んだものは生き返らない。それで、アリーが乳飲み子だった刹那を、あそこで育てたのだ。
「まだ、割と豊かだった頃にな、ひょっこりとやってきてソレスタルビーイングに来ませんか? と、勧誘に来たんだよ。まあ、その時の当主は、断っちまったから、それまでだったんだがな。」
 それなりの魔法力のあった刹那の遠い祖先は、ここでの暮らしを続けたいと言って、ディランディーの誘いは断った。まあ、つまり、その辺りから察するに、妖精王の位につけるほどの魔法力はあったらしい。無理強いはしませんが、いつか、またお誘いします、と、帰ったのだが、きっちりとアリーもたらしていった。危害を加えようという気を起こさせなかったらしい。次に、百数十年して現れたニールも、アリーには同様のことが起こった。それまでは、オアシスに近づくものは殺していたのに、ニールだけは、すんなりとオアシスに迎えてしまったからだ。
「へえー、俺は胡散臭いなあと思ったぜ?」
「効果が現れないのもいるとは聞いてる。おまえは、それだったから、ここに召還されたんだろ。だいたい、あいつは、そういうのがいないと止めるのがいないからな。」
「けど、女性には効果がないんだろ? 」
「ないんだが、あほライルが仲を取り持っちまうからな。」
 逆に、ニールがライルと男性陣の仲を取り持つから、ディランディーさんちの我侭は通り放題になっている。ふたり揃っていたら、王とハプティズム家のふたりしか止められないわけだが、どっちもディランディーさんちより年下だから、止められたことはなかったりする。そういうわけで、ニールに確実にツッコミできて、護衛できるジョシュアは召還されたのだ。
「いいことしてるじゃないか。俺も混ぜてくれ。」