だぶるおー 天上国 王妃の日常1
「僕は、最初にティエリアに想いをぶつけた。何も知らなかったティエリアを毎晩抱いて、快楽を引き出した。けど、それだけだった。身体は、すぐに馴染んだけどね。きみがやってるのも、僕と同じことだ。ニールの気持ちに変化はないだろ? だから、不安になって飢えるんだ。」
愛してると何度、囁いてもティエリアは返さなかった。そりゃそうなのだ。一方的に抱かれて快楽に陥されるだけで、そこに気持ちはない。身体だけの関係なんてものは、そういうものだ。それに行き着いて、アレルヤは、ティエリアに詫びて、自分の想いを告げた。ベッドの中ではないところで、だ。自分を深く知ってもらうために、いろんなことを話した。そこから、ゆっくりと関係は築かれて、現在に到っている。今は飢えていない。ティエリアがニールの護衛として遠出することは心配するが、その気持ちが変ることはないと知っているから疑わなくなった。刹那がニールを離さないのも同じことだろうから、経験者としてアドバイスをしたかった。このままだと、ニールは幸せだなんて思わないままだ。それは親友として、とても悲しいから。刹那の幸せだけを願っていて、自分の幸せなんて必要だと思わないなんて悲しすぎる。
「ニールはね、刹那のことは、とても大切に思ってる。けど、それは、夫婦としてのものじゃない。きみを護りたいってほうに傾いている。それじゃ違うだろ? きみは、言葉が少ないから伝わってない事も、たくさんある。ちゃんと、どうして、ニールが必要なのか、話さないといけないんだ。わかるね? 」
「俺は何度も言った。だが、あいつが曲折して理解する。」
「もちろん、ニールもいけないんだ。けど、理解してくれるまで、ニールの心に届くまで、それは続けないといけない。きみだって、ニールの言葉を聴いてないだろ? ニールの願ったきみの幸せの形ってものを理解したかい? 」
子供が居て夫婦で、この国を治める。それが、ニールが刹那に願った幸せの形だ。王妃の位は、呼んでしまったから取り消せないが、愛人でも作って、そういう幸せの形になればいいと、ニールはアレルヤに言う。そうじゃないだろう、と、意見したところで当事者でないものの意見なんて届かない。これは、二人で解決すべきことだ。
「子供を作れとは言われる。それが無性に腹が立つ。」
「腹を立てるのは簡単だけど、その形に近いものは、きみたち二人でも作れるのだと、ニールに教えてあげればいい。きみが、ニール以外を望まないのだと、それではっきりするだろうしね。」
「あいつは男だ。」
「もちろん、ニールは妊娠しないよ。・・・・そこからは、刹那が考えることだと思う。その答えが出ないと飢えは治まらないし、下手をするとニールは疲れ果てて死んじゃう。ちゃんと考えて答えを見つけて。もっと、ニールと話をして。」
ふたりで、この国を護る。妖精王と王妃の仕事は、それに尽きる。ただ、まあ、ディランディ家の仕事もあるから、ニールは外へも出なければならない。外へ出ても、刹那が焦れることなく待っているためには、それは必要なことだし、ニールが帰ってくる気になるのにも必要なことだ。これから、刹那の力が衰えるまで、または、次期妖精王が見つかるまで、長い時間を過ごす。その時間が幸せなものでなかったら、長い時間は苦痛を伴うものになる。だから、なるべく早く、刹那とニールが二人で居ることの幸せの形というものに辿り着いて欲しいと、アレルヤは願うのだ。
「ティエリアはね、最初、僕が性欲処理してると思ってたんだってさ。ここには娼婦なんていないから、そういうことなんだろうって。・・・・ひどいだろ?」
「え? 」
「何度も、『愛してる』って囁いたのも、そういうシュチュエーションだって思っててね。だから、腹を立てていたんだ。」
それすら気付かなくて、毎晩、泣きながら眠りにつくティエリアを執拗に攻め立てた。気持ちが通じないことに、腹を立てて怒鳴ったら、返事がそれで、アレルヤは絶句したのだ。自分の言葉が素通りしていたのだと理解して後悔した。それから、なぜ、抱くのかを説明するために話した。何日もかかったが、「そういうことならいい。」 と、そっぽを向いて呟かれた時には天にも昇る気になった。ようやく通じて、飢えはなくなった。それを話してアレルヤは微笑む。過去の恥ずかしい話だが、これで、刹那が飢えから抜け出す方法をみつけてくれればいいから話した。
「俺も、そうなんだろうか。あいつ、俺が性欲処理をしていると思っているのか。」
「さあ、それはわからない。王妃の仕事だと思ってるんじゃない? 」
「心外だ。」
「ほら、意思疎通って必要だろ? 刹那が思ってることを理解させないから、そうなってるんだよ? 」
「アレルヤ、さっきの話は、ティエリアは許可しているのか? 」
「ううん、僕の独断だからティエリアには言わないでくれるかな? そうでないと、僕、半殺しになる。」
「わかった。考えてみる。・・・・すまない。」
「そこは、『ありがとう』だよ。」
そうだったな、と、刹那も苦笑して踵を返した。欲しくて欲しくてたまらないものを手にした。だが、手に落ちてきたのは身体だけだった。相手の気持ちがわからない。それが不安で融けるまで抱き合う。それでも朝には不安になる。刹那の二ヶ月というのは、その連続だった。ニールは、拒むことはない。だが、何かが足りない。それがわからなくて焦れていたのも事実だ。アレルヤに言われて、ようやく、それを気付かされた。ニールから、「愛してる。」 と、言われたことはないのだ。
ふたりで作る幸せの形という漠然としたものは、想像できない。だが、考えなければ、この飢えは消えないし、関係に変化はない。
・・・・これは難題だな。・・・・
さすがに相談できる代物ではないから、しばらくは考えることになりそうだ。ニールが望んでくれたものは、ニールが一番幸せだと思っている幸せの形だ。それには、子供が必要で、刹那とニールでは作れない。だが、似た形のものを作ることはできると、アレルヤは言う。それが何か、よく考えてみようと、決めた。ニールの気配は、中庭にある。そこへ出向いたら、木陰に、たくさんのハロとデュナメスの真ん中で、ニールはぐっすりと眠っていた。周囲の木陰では女性陣とライルとティエリアが茶会をしている。
「アリー、ニールは、あのままか? 」
そこに姿のないアリーの名前を呼べば、すぐに現れる。あのままだ、と、いう返事に、そっと近寄った。疲れ果てて起きないほどの状態に追い込んだのは、刹那だ。
刹那が近寄ると、ハロたちが譲ってくれた。空いた場所に座り込んで、じっと、その寝顔を覗き込む。
作品名:だぶるおー 天上国 王妃の日常1 作家名:篠義